埼玉県戸田市立戸田第二小学校(建築家・関根要太郎作品研究)

◆戸田市立戸田第二小学校

　・・・・昭和33年秋竣工、モダンデザイン満載の関根最晩年の作品

　去る2月20日は埼玉県秩父出身で、大正から昭和半ばにかけてモダンな作風を得意とし、国内で活躍した建築家・関根要太郎(1889～1959)の61回目の命日だった。それと前後し先日は関根の遺作にあたる、埼玉県上尾市立中央小学校第二校舎(昭和34年築、平成24年解体)を紹介させていただいた。

　そして今回も関根最晩年の作品を紹介させていただきたい。その作品とは埼玉県戸田市にある市立戸田第二小学校。関根が69歳でその生涯を閉じる約5ヶ月前の、昭和33(1958)年10月に竣工したものである。

　昭和40年代半ばに建てられた、鉄筋コンクリート製4階建てのマンモス校舎や、平成15(2005)年に建てられた、コンクリート打ちっ放しのお洒落な校舎などが両脇に建ち、関根設計のこの校舎は目立たない存在ではある。しかし竣工から62年経った現在も、ご覧のように現役の校舎として使われ続けているのである。

　戦前の華やかな活動に対し、その全容が殆ど知られていない、関根要太郎の埼玉における晩年(戦後)の建築家活動。それを知る手掛かりになったのが、関根のご遺族から見せて頂いた経歴書による。この経歴書は関根が亡くなる前年の昭和33年に作成したもので、当時新市庁舎建設が議論されていた浦和市の市長・川久保義典や、浦和市の関係者に提出する目的で作成したもののようである。

　その経歴書、戦前の主要な仕事と戦後における埼玉の仕事を羅列した、タイプライター打ち3枚綴りの簡素なものである。埼玉がメインとなった戦後20数件の仕事に続き、昭和33年度の仕事として紹介されていたのが、羽生中学校(現羽生市立西中学校)、上尾高等商業学校(現埼玉県立上尾高校)、戸田小学校、皆野小学校の4軒である。いずれも鉄筋コンクリート造での建設予定が明記されていた。

　但し予算的に流動的な話もあったようで、秩父郡皆野町立小学校は鉄筋コンクリート造2階建て・廊下なし校舎と、経歴書には明記されていたものの、実現に至っていない。なお羽生西中の校舎は、鉄筋コンクリート造3階建てで昭和33年の７月、上尾高校の校舎は鉄筋コンクリート造2階建てで昭和33年の11月に竣工している。
　そして戸田の小学校だが、市内のどの学校を指すのか分からず、市内でいちばんの歴史を持つ第一小の校舎と推定した筆者であった。間もなく上戸田にある第一小を見に行くと、その時代に建てられたと思わしき、鉄筋コンクリート造2階建ての校舎を発見。これが関根作品と勝手に断定し、戸田における関根作品の調査を終えたのである。

　ちなみに筆者が関根要太郎の設計作品と思い込んだ、戸田第一小の鉄筋コンクリート製の校舎、同校の校史を見ると3か月半の工期をかけて昭和34(1959)年8月に竣工したものだという。大きく取られた庇が印象的な、従来の関根作品とはあまりにも違う作風であった。立派な作品であることは間違いないが、あまりにも違うデザインに疑問を抱いたまま、十数年の歳月が経過してしまったのである。
　しかし昨年のはじめ頃、市南部の芭蕉川沿いにある戸田第二小の存在を急に思いたった。そしてグーグルアースで確認してみると、年代物のそれらしき校舎を発見。次いで同校のホームページを閲覧したところ、昭和33年10月にその校舎は竣工したという。関根の経歴書と記述とぴたりと一致した訳である。

　そういう事でそれから数日後の週末、実際に戸田二小を見に行くことした。埼京線の戸田公園駅を下車し、騒々しい中山道から昭和の面影残る小さな商店街を抜け、川沿いに建つ高層マンションを眺めながら低地帯を15分ほど歩く。そして球技の防護ネットが広く貼られた、戸田二小のグラウンドが見えてきた。
　そして昭和40年代に建てられたマンモス校舎と、2000年代に建てられたコンクリート打ちっ放しの現代的な校舎の間に、ガラス張りの階段室を持つ校舎が見えてきたのである。冒頭の写真でご覧いただいたのが、その階段室だ。

　小さいながらもなかなかの存在感。これが関根要太郎設計による戸田第二小学校の校舎であるが、昭和32(1957)年に竣工した関根の設計作品・朝霞市立朝霞第一中学校(2006年解体)と相通じる、モダンな作りの階段室である。現在はアルミサッシに交換されているが、スチールサッシの窓だった竣工時は、相当なインパクトがあったに違いない。
　今から十数年前、朝霞一中のモダンな階段室を初めて見た時の感動が蘇った筆者であった。そして教室面の外観の作りも、上尾高校や上尾中央小第二校舎と共通した作り。紛れもなく関根要太郎の設計作品だと確信した。

　とても小規模な作品であるが、インパクトのある関根要太郎作品。耐震性や建物の老朽化もあり、その先はさほど長くないと想像される。
　しかし埼玉出身のベテラン建築家の仕事は、同校で学んだ人々の心に刻まれたに違いない。今から60年前に郷里・埼玉の生活向上のため奔走した、ベテラン建築家のことを多くの方に知って頂けたら幸いである・・・・。

◆戸田市立戸田第二小学校
　◎設計：関根要太郎+山中眞三郎(関根建築事務所：関根建築研究所)
　◎施工：不詳
　◎竣工：昭和33(1958)年10月1日
　◎構造：鉄筋コンクリート造2階建て
　◎所在地：埼玉県戸田市喜沢南2-2-37

正門の門柱も、関根要太郎設計による鉄筋コンクリート製校舎竣工と同時期に完成したそうである。

ちなみに関根がこれ以前に設計を手掛けた、上尾市立中央小学校(昭和29年築)も竣工当時これに似たデザインの正門が設けられていた。そのような状況証拠を押さえると、この正門も関根が設計した可能性が高いのではないだろうか。

校舎に対しかなり大きめな作りの階段室。玄関や洪水発生時の屋上使用を考えて、このような作りになったのだろうか。

関根設計による階段室のデザインが、戸田二小のシンボルになっているような気がする。

★戸田市立戸田第一小学校(設計：松本明男・K構造研究所、昭和34年築)

こちらは筆者が長年に渡り関根要太郎作品だと思い込んでいた、戸田第一小学校の旧校舎。さいたま市浦和区の埼玉県立文書館にこの小学校の図面や書類が所蔵されており、先日閲覧したところ建築家・松本明男氏(?～1996)率いる〔K構造研究所〕が設計、大手工務店の鹿島建設が施工を担当したことが判明した。

松本明男は昭和28(1953)年に、軽量鉄骨鉄筋コンクリート工法(のちのK構造工法)を発明し特許を取得。その工法を用い建てられたのが、戸田一小の校舎だったという。庇に張り出した鉄骨の庇が、当時のK工法の特徴だったという。

なおK構造研究所は東京と広島に建築事務所を置き、国内で数々の建築設計に携わる。ちなみに筆者の暮らす埼玉県朝霞市では市役所本庁舎(昭和47年築)、市民会館・ゆめぱれす(昭和51年築)などが、K構造研究所の設計とのことだ。

★戸田市立戸田中学校講堂(設計：関根要太郎、構造計算：岡隆一、昭和32年築)

戸田二小の前年に建てられた中学校の講堂(体育館)。関根が長年支持した構造学者・岡隆一開発の平衡構造工法を用い建てられた。当時としては珍しい天井の高い体育館で、東京オリンピック時には海外チームの練習場として使用されたという。

◆図版・・・・「戸田町広報」、「戸田市立戸田中学校ホームページ」

小学校の近辺は大手製パン会社、老舗製菓会社の工場が建ち、パンや菓子の香ばしい香りが立ち込めていた。

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★参考文献・資料

「戸田市立戸田第二小学校ホームページ」

「戸田町立第一小学校建物配置図・平面図・仕上表」埼玉県立文書館蔵

「K構造研究所ホームページ」

★撮影・・・・2012年8月、2019年3月、2020年3月