不動貯金銀行高岡支店(建築家・関根要太郎作品研究)

◆不動貯金銀行高岡支店
　・・・・昭和9年ころ築、蔵の町・高岡にあった関根設計による銀行店舗


　風格溢れる美しい黒漆喰塗りの土蔵商家が多く建つことで知られる、富山県高岡市の山筋通り。平成12(2000)年に国の重要伝統的建造物群保存地区に選定された山町筋だが、かつてその通りには一軒のとても素敵な銀行店舗が建っていた。その銀行の名は不動貯金銀行高岡支店である。

　東京・芝大門に本店を置くこの銀行は、大正9(1920)年に高岡に出店。また昭和20(1945)年5月に他の貯蓄銀行と合併し、日本貯蓄銀行が設立されるまで高岡・木舟町の山町筋に店舗を構えていた。
　そして冒頭の写真でご覧いただいた店舗は、昭和9(1934)年ころに改築された2代目の店舗である。ちなみに大正期に建てられた初代、昭和初期に建てられた2代目店舗とも、埼玉県秩父市出身の建築家・関根要太郎(1889～1959)が設計を担当している。今回は限られた僅かな資料のみだけだが、この銀行店舗について考察をおこなっていきたい。

　筆者の手元にある資料によると、不動貯金銀行高岡支店の開業は大正9(1920)年3月のこと。このころ不動銀行は高岡以外に北陸4県で、金沢(大正6年)、福井(大正8年)、武生(大正7年ころ)、新潟(大正9年)、長岡(大正9年)、富山(大正9年)の各支店を開業させていた。
　また福井を除く北陸5店舗はその作風から見て、不動貯金銀行の営繕組織であった日本勧業株式会社の建築部に所属していた、関根要太郎が設計を担当したと考えられる。以前紹介した金沢支店は開店より2年後の大正8(1919)年に建てられたもので、ドイツ版アールヌーヴォー〔ユーゲントシュティール〕の影響を受けた、とても美しいものだった。

　そして山町筋に建てられた不動貯金銀行高岡支店の初代店舗は、既にあった土蔵商家の前に平屋の店舗を建てるという簡素な仕上がりとなっている。既存の土蔵商家を営業室や金庫にし、新築の店舗部分を客溜(待合スペース)にしたのだろうか。
　この高岡支店はかなり小規模な作品だが、外壁に目地切りを施し、窓回りの茶褐色のタイルを配置するなど、当時の関根作品の特徴が幾つか見られる作品である。黒漆喰塗りの土蔵商家が多く建つ山町筋にあって、出しゃばりすぎず引っ込みすぎずという、絶妙な感じの仕上がりの作品である。

　土蔵＋洋風という、まさに和洋折衷のスタイルとなった不動貯金銀行の高岡支店。しかし昭和に入ると高岡市内に大規模な〔昭和通り〕が敷設されることになり、その道路予定地にあった不動銀行高岡支店の建て替えが決定する。そして再び関根要太郎の設計より新たな店舗が建設された。
　当時関根の作風が大正中期から昭和初期のモダンデザインから一転し、クラシカルな銀行店舗を制作するようになった事や、昭和通りが昭和9(1934)年に開通していることを考えると、この年に建てられた可能性が高い。

　角地という事を考慮した玄関の配置や、積雪の多い寒冷地ということを配慮し、鉄筋コンクリート造でありながら寄棟型の屋根を付けるなど、20年に渡り銀行の店舗設計を手掛けてきた関根ならではの配慮も見られる作品となった。また簡略化されたトスカナ式の角張ったオーダー、軒周りの歯型の装飾や2階上のコーニスなど、山口県に現存する関根の設計作品：不動銀行下関支店(昭和9年築)と共通するデザインも幾つか見受けられる。この時代ならではの関根らしい作品である。

　また戦後になり関根設計のこの銀行店舗は、不動貯金銀行の後身にあたる協和銀行の支店として使われていたようである。また昭和44(1969)年に刊行された「協和銀行史」内に掲載された店舗紹介のページには、新たに建て替えられた店舗の写真が掲載されている。
　協和銀行高岡支店は関根設計の店舗とよく似たもので、一見すると関根設計の不動銀行支店を増改築したとも思える。しかし窓や柱の構造体に、決定的な違いがみられることを考えると、それまでに関根設計の店舗は解体された可能性が高い。

　不動貯金銀行の営業を継承し高岡に店舗を開いていた協和銀行は、昭和47(1972)年に店舗を北陸銀行へ譲渡。その後この建物は、加州相互銀行～石川銀行の店舗として使われる。しかし平成13(2001)年に石川銀行が経営破綻したため、富山第一銀行へと店舗は譲渡されている。
　店舗の譲渡まもなく富山第一銀行は既存の店舗を解体し、この地に新店舗を建設することを決定する。そして平成16(2004)年3月に、鉄筋コンクリート造2階建ての店舗を竣工させる。

　ちなみに平成16年に建てられた富山第一銀行の高岡中央支店、国の重要伝統的建造物保存地区に位置することもあってか、昭和初期に建てられた不動貯金銀行高岡支店のイメージを再現したデザインで作られたのである。これは称賛すべき英断だと筆者は考える。富山第一銀行の支店竣工から10数年、建築家・関根要太郎の魂は、人知れず蔵の町・高岡の町に生き続けるのであった・・・・。

★図版・・・・・筆者所蔵絵葉書

◆不動貯金銀行高岡支店
　◎設計：関根要太郎(不動貯金銀行営繕課)
　◎施工：不詳
　◎竣工：昭和9(1934)年ころ
　◎構造：鉄筋コンクリート造2階建て

　◎旧所在地：富山県高岡市木舟町80-1

★図版・・・・・「不動貯金銀行創立四十周年記念帖」不動貯金銀行編、昭和15年

★図版・・・・・「高岡今昔写真帖」太田久夫編、平成14年

◆不動貯金銀行高岡支店(初代店舗)

　◎設計：関根要太郎、山中節治(日本勧業株式会社)
　◎施工：不詳
　◎竣工：大正9(1920)年ころ
　◎構造：鉄筋コンクリート造平屋(推定)

　◎旧所在地：富山県高岡市木舟町

★図版・・・・・「ニコニコ風景図鑑」不動貯金銀行編、昭和6年

山町ヴァレーに展示してあったかつての高岡・山町筋の写真。右手に写るのが関根設計による不動貯金銀行支店。

★協和銀行高岡支店

不動貯金銀行の後身にあたる都市銀行の店舗で、この写真は昭和40年代前半に撮影されたもの。この場所にあった関根設計の不動貯金銀行支店にどことなく似ているが、柱の間隔や窓の位置などが違うことから考えると、協和銀行時代に建て替えられた可能性が高い。

★図版・・・・・「協和銀行史」協和銀行編、昭和44年

★石川銀行高岡支店

石川銀行時代の平成14(2002)年に撮影されている。協和銀行時代の店舗を引き続き使用していることが分かる。この直後に石川銀行は経営破綻し、店舗の営業権は富山第一銀行に譲渡。それより間もなく新店舗建設の運びとなる。

★図版・・・・「高岡今昔写真帖」太田久夫編、平成14年

★富山第一銀行高岡中央支店

そして不動貯金銀行高岡支店の跡地に、平成16(2004)年に竣工した富山第一銀行の高岡中央支店。国の重要伝統的建造物保存地区内に建てられる事もあってか、オーダーやコーニス、歯型の装飾など、昭和初期にあった不動貯金銀行支店を意識したデザインが施されている。

本題から話は逸れるが、昭和9年完成の〔昭和通り〕敷設のさい削られたのが塩崎商平衡株式会社。右手の土蔵商家をカバーするような形で、左手に洋風店舗が昭和9年に作られ、このような姿になった。

★北陸4県にあった関根要太郎設計による不動貯金銀行支店

◆不動貯金銀行金沢支店(金沢市南町、大正8年築)

ここからは福井・石川・富山・新潟の東北4県に建てられた関根要太郎設計による不動貯金銀行支店の写真を幾つか。まず最初が金沢城のそばにある尾山神社門前にあった不動貯金銀行の支店。ユーゲントシュティールの影響が強く出た美しい作品である。

★図版・・・・筆者所蔵絵葉書(上の3点)

★不動貯金銀行富山支店(富山市本町、大正8年ころ築)

金沢の商業地区である本町あった不動貯金銀行支店。関根が得意としたセセッションスタイルをベースに、辰野金吾が得意とした赤煉瓦に花崗岩を横帯に巻く辰野式をも採用した異色の作品だ。

◆不動貯金銀行新潟支店(新潟市本町通、大正9年ころ築)

寒冷・豪雪地の新潟ということもあってか、開口部や玄関カバーを大きめに取るなどの配慮がされた作品。外壁の目地切りの装飾が、先に紹介した初代の不動貯金銀行高岡支店に似ている。

◆不動貯金銀行長岡支店(長岡市表町、大正8年ころ築)

北陸４県でも特に豪雪地帯である新潟県長岡市に建てられた不動貯金銀行支店。基本的に気関根らしいセセッションスタイルをベースに、積雪対策のための急傾斜の屋根や、雪除け用の雁木のアーケードが建物の周りに設けられるなど、完全なる雪国仕様になっているユニークな作品だ。

★図版・・・・「不動貯金銀行創立四十周年記念写真帖」昭和15年(上の3点)

★図版・・・・・「ニコニコ風景図鑑」不動貯金銀行編、昭和6年

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★参考文献・資料

「ニコニコ風景図鑑」不動貯金銀行編、不動貯金銀行、昭和6年

「為栗裕雅ホームページ、遊牧民の窓：協和銀行店舗一覧」為栗裕雅氏作成

「協和銀行史」協和銀行編、協和銀行、昭和44年

「高岡今昔写真帖」太田久夫氏編、郷土出版社、平成14年

「富山第一銀行ホームページ」

★撮影・・・・2019年4月