函館市水道局元町配水場・管理事務所(函館の建築再見)

◆函館市水道局元町配水場・管理事務所
　・・・・明治22年竣工、130年の歴史を持つ美しい水道施設群


　今年はまだ函館を訪れていないが、梅雨入りしてから真夏にかけての厳しい季節に、筆者の頭の中に思い浮かぶ函館の美しい風景がある。それは元町の高台に建つ市水道局の元町配水場だ。
　函館山の頂上まで真っすぐに続くロープウエイの索道を頭上に見上げ、夏になれば配水池の上にある芝生は青々と輝き、眼下には大森浜と津軽海峡が見渡せる。そして配水場内の噴水からは、冷たい水が気持ちよく噴き出しているのだ。年々厳しくなる夏の殺人的な猛暑の中で、これほどに心を癒してくれる風景は他にない。

　猛暑の季節になると、筆者の心の中にいつも登場する、函館元町の水道局元町配水場。その歴史はかなり古く、明治22(1899)年に完成したものである。ちなみに明治22年と言えば建築家・関根要太郎(1889～1959)の生まれた年。今年で完成から130年を迎える歴史ある水道施設なのである。
　なお函館の水道施設、洋式の近代水道としては横浜の明治20(1887)年に次いで、国内では二番目に古い。横浜はイギリス人技師の設計によるものだが、函館は日本人の設計により建設されている。

　幕末の安政6(1859)年に横浜と長崎と共に、貿易港として開港した函館。開港と前後し人口が一挙に増えたが、そこで問題なったのが飲料水の確保であった。当初は井戸水でそれを解決しようとしたが、水質の悪さでそれでは賄えなかった。
　この年、西本願寺の僧侶・堀川乗経(1824～1878)が、亀田川から現在でいうところの西部地区の銀座通り付近まで願乗寺川を掘削。この川が町の生活用水として使われていたが、明治19(1886)年にコレラが発生し、800名ちかい犠牲者を出す事態が発生してしまっている。

　そのような事で函館では近代上水の建設が決定し、この年から建設開始の運びとなった。水量が少ないこの周辺を水源にすることは諦め、西部地区から10キロ近く離れた赤川を水源に、イギリス製の鋳鉄管を使い元町の配水池まで運ぶというもの。これはポンプなどの動力を使う訳でなく、逆サイフォンの原理でここまで水を運ぶことにした。
　そして明治21(1888)年に工事を開始。その後、急ピッチで工事は進められ、明治22(1889)年12月に中区配水池をはじめとする第一期工事が完了。明治26(1893)年には、それより高い位置に高区配水池が竣工している。なお水源の汚濁や凍結防止のため、大正中期に鉄筋コンクリート製の蓋が付けられ、現在のような姿になった。

　この水道施設の設計は、外国人技師(お雇い外国人)の登用も検討されたが、報酬が高額という事もあり日本次技師がそれを担当することになった。そこでアメリカの留学経験を持つ、鉄道技術者・平井晴二郎(1856～1926)が実施設計を担当することになった。ちなみに平井は北海道土木課の技術者として、現在は札幌の名所としてお馴染みの、旧北海道庁の旧赤レンガ庁舎(明治21年築)の建設にも携わっている。
　平井は函館の水道工事が着工した直後に北海道を離れるが、日本人技師によりそのプロジェクトは引き継がれることになった。その配水池と同時期に完成したのが、冒頭の写真でご覧いただいた赤レンガの事務所棟だったのである。

　そして赤レンガの事務所棟、かつて汐見町配水池という名称だった頃から番人詰所、つまり今と同じ用途で使われていたのである。明治初期に北海道で建てられた洋風建築らしい武骨なデザインだが、不思議と緑の芝生が広がる配水池とマッチしている。
　また入場期間が配水池内の桜が咲く期間に限定されてしまうが、この山上にある高区配水池にも、番人詰所に似た煉瓦造の可愛らしい施設が建っている。こちらも機会があれば、見てみたい建造物だ。

　今からの季節、実際にここを訪れるのも良し、ロープウェイに乗ってゴンドラから美しい配水池を見下ろすもよし、様々な角度から絵になるのが元町の配水池である。南部坂や聖ヨハネ教会脇の坂など、ここへ訪れるのは急坂だらけだが、これだけの絶景がここには待っている。
　函館山ロープウェイに乗る前にでもぜひ訪れていただきたい、函館の美しい産業遺産である。

◆函館市水道局元町配水場・管理事務所(旧函館区汐見町配水池番人詰所)
　◎設計：不詳
　◎施工：不詳
　◎竣工：明治22(1889)年12月
　◎構造：煉瓦造平屋
　◎所在地：函館市元町1-4
　　❖函館市景観形成指定建築物
　　❖厚生省指定近代水道百選(昭和60年)
　　❖日本土木学会推奨土木遺産(平成13年)

　　❖経済産業省認定近代化産業遺産群・続33(平成20年)

昨年9月の函館訪問時は、北海道胆振東部大震災の直後だったこともあり、噴水は休止されていた。

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★参考文献・資料

「函館の水」函館市水道局リーフレット

「函館市元町配水場リーフレット」

「函館市公式観光情報・はこぶら、箱館はじめて物語」

「ウィキペディア、函館元町配水場」

★撮影・・・・・2012年7月、2014年6月、2016年10月、2018年9月