金沢市兼六町の石川県立伝統産業工芸館(昭和モダン建築探訪)

◆旧石川県美術館
　・・・・昭和34年築、金沢出身の建築家・谷口吉郎設計によるモダン美術館


　武蔵ヶ辻の旧加能合同銀行本店(現北國銀行武蔵ヶ辻支店、設計：村野藤吾、昭和7年築)からスタートしたこの日の金沢建築探訪は、広坂の旧石川県庁舎(現石川県政記念しいのき迎賓館、設計：矢橋賢吉、大正13年築)の見学と撮影を終え、前半の予定を事前の計画通りに終了。次に向かったのが日本三名園の一つとして知られる、金沢の名所・兼六園だった。

　先ほどの訪問地が広坂だったこともあり、兼六園へはメインの金沢城・石川門そばの桂坂口からではなく、園南側の真弓坂口から入場する。事前にグーグルマップや地理院地図で下調べして覚悟はしていたが、真弓坂から兼六園への上りは想像以上のものであった。
　そして坂を上り切った場所には、高台という土地にはミスマッチなとても広大な瓢池、その先には日本庭園には異色の噴水が設置されていた。この池や噴水、ポンプで水を汲み上げた訳でなく、この上流の犀川から取水した辰巳用水を経由した水を利用したものだという。

　玉川上水や神田上水などの江戸の上水技術に匹敵する、金沢の上水・灌漑技術には感心しまくりの筆者であったが、兼六園の水のマジックもなかなかのものであった。有名な霞が池を振り返ると、眼下には金沢の町を見下ろせるという天空の日本庭園・兼六園である。
　高台の地形に縦横無尽に水が流れる庭園の演出を堪能した筆者は、その東端にある小立野口へと向かった。園の境界線を示す煉瓦塀の隣には、とても美しい一軒の美術館が建っていた。

　それが今回紹介させていただく、石川県立伝統産業工芸館である。この建物は昭和34(1959)年に石川県美術館として建てられたものだが、昭和58(1983)年に美術館が出羽町に移転した後は現用途として使用されている。石川県立伝統産業工芸館は加賀友禅、九谷焼、金沢漆器、金沢表具、金沢箔、金沢仏壇など経済産業省指定の10種を含む、36品目の地元の伝統工芸品が展示される金沢ならではの美術館だ。
　なおこの建物の設計を手掛けたのは、地元金沢出身・建築家の谷口吉郎(1904～1979)である。先月、西町の金沢市西町研修館(旧石川県遷移会館、昭和27年築)で紹介させていただいたが、戦後昭和を代表する偉大な建築家の一人である。

　さて兼六園のすぐそばに建てられたこの美術館、周辺の景観を考慮してか和風なモチーフとしたデザインが採用されている。一見すれば戦後まもないモダニズム建築にも見えるが、壁面の連続したコンクリートのモチーフは障子窓にも見える。更に正面玄関のデザインは、和風の格子窓を連想させるものになっている。またこの時代のモダニズム建築特有の薄っぺらさはなく、和風建築のように安心できる重厚感も兼ね備えている。
　そしてこの建物、この後の谷口吉郎作品に多く見られる、作風の基本ラインのようなものが多く見られるがとても興味深い。現在は県立能楽堂別館として使われている旧県美術館の別館をはじめ、統一感のある建物の仕上がりは谷口ならではのデザインである。

　また今回の訪問で悔やまれるのは休館日という事もあり、内部を見学できなかったことである。金沢の美しい工芸品と谷口設計の素敵であろう建物内を鑑賞するのは、次回の金沢訪問の楽しみとしておきたい。
　ちなみに谷口吉郎とその長男である谷口吉生(1937～)の記念館が、谷口の生家跡である寺町に令和元(2019)年の夏にオープンするとのこと。そちらの訪問と共に、石川県立伝統産業工芸館をじっくり見学してみたいと、次回の金沢旅行のプランを練っている筆者であった。

　なお今回で金沢の建築探訪記の前半の部は終了。関東や函館の建築紹介を経て、今度は金沢旅行の2日目に立ち寄った、富山県高岡市の建築探訪記をおこなう予定である。なかなか終わりそうもない金沢・高岡の建築探訪記、気長にお付き合い頂ければ幸いである。

◆旧石川県美術館(現石川県立伝統産業工芸館)
　◎設計：谷口吉郎
　◎施工：不詳
　◎竣工：昭和34(1959)年10月
　◎構造：鉄筋コンクリート造2階建て

　◎所在地：石川県金沢市兼六町1-1

谷口設計の石川県立伝統産業工芸館は、兼六園と隣接した場所に建っている。

こちらは現在、県の能楽堂別館として使われている石川県美術館の旧別館。本館と統一させた端正なデザインが印象的である。

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★参考文献・資料

「光跡　モダニズムを開花させた建築家たち」池原義郎氏著、新建築社、平成7年

「東文研アーカイブデータベース・谷口吉郎、東京文化財研究所」

「石川県立美術館ホームページ」

「石川県立伝統産業館ホームページ」

★撮影・・・・・2019年4月