金沢市青草町の北國銀行武蔵ヶ辻支店(昭和モダン建築探訪)

◆旧加能合同銀行本店

　・・・・昭和7年築、昭和を代表する建築家・村野藤吾設計のモダンな銀行店舗


　今日からから世間は10連休という大型連休に入るそうだが、今年もゴールデンウイークとは無縁の筆者。しかし何もないのも寂しいので、先週妻を連れ1泊2日の小旅行へと出掛けた。今回の目的地は石川県の金沢市と富山県の高岡市である。

　以前から行きたいと思っていた金沢。北陸新幹線開通より4年、やっと実現したこの旅であった。今回もかなり駆け足な旅となってしまったが、兼六園やひがし茶屋街、金沢城などの定番の名所の他、金沢と高岡に残る数々の近代建築を見学・撮影してきた。
　そういう事で本日から金沢・高岡の建築探訪記のスタートである。宜しければ暫らくのあいだ、この旅行記にお付き合い頂ければ幸いである。

　旅行初日は大宮駅乗車の新幹線を終点の金沢駅で下車。本日の宿泊先である武蔵ヶ辻そばのホテルまで徒歩で移動する。武蔵ヶ辻は古くからの交通の要所と繁華街と知られる地域だそうで、この辻にはその地域を象徴するような一軒の歴史的建造物が建っていた。
　それが冒頭の写真でご覧頂いたこの建物、北國銀行武蔵ヶ辻支店である。現在は北國銀行の支店として使われているが、昭和7(1932)年に金沢の地場銀行である、加能合同銀行の本店として建てられたものだ。戦前竣工の建物とは思えない、とてもモダンな佇まいの建築作品である。

　茶褐色のレンガタイルに最上階に均等に配置された5つの窓、船底の形にも見える2層分の高さを持つ3連の尖頭アーチ型など、シンプルな構成ながらとても洒落ている旧加能合同銀行の本店。新しくもあり懐かしさも感じさせる、時代や流行を超越したそのデザインが印象的な作品である。
　なお今から10年ほど前に地域の再開発に伴い、旧所在地から20メートルほど東側へ曳家された。それと同時に耐震工事と竣工時の姿への復元工事が実施され、竣工当時の華麗な姿へと蘇っている。

　モダンでもあり少し懐かしさも感じさせる、とても美しい佇まいの旧加能合同銀行本店。設計を手掛けたのは、建築家の村野藤吾(1891～1984)である。
　村野と言えば昭和を代表する建築家の一人で、大正7(1918)年の早稲田大学の建築科を卒業後、関西を拠点に活動する建築家・渡辺節(1884～1967)の建築事務所に就職し、長らく渡辺設計事務所のチーフデザイナーとして活動。昭和4(1929)年に渡辺の事務所を退職した後は、念願の村野自身の建築事務所を開設させた。以降、半世紀に渡り国内の建築界をリードしていったのは皆さんもご存じの通りである。

　実質的なデビュー作となる、東京・日本橋の森五商店(現近三ビル、昭和6年築)が竣工した当時村野は既に40歳という年齢。ちなみに村野より2歳年上にあたる関根要太郎(1889～1959)は、大正5(1916)年25～26歳の頃から単独設計を手掛けていた事を考えると、村野の建築家デビューは決して早いものでなかった事がお分かり頂けるだろう。
　なお村野が自身の設計事務所を開設した当時は、昭和初期の世界的な不景気もあり多くの仕事は舞い込まなかったが、その中で手にしたのが金沢の地場銀行本店の設計の仕事だったのである。

　そして村野設計の初期設計作品は、建築史家で元祖建築探偵として名高い藤森照信氏の著書〔日本の近代建築・下、平成5年、岩波新書〕によると、モダンデザインから一周遅れとなった後期表現派にあたるという。金沢の旧加能合同銀行本店を実際に見てみると、ドイツ表現派やモダニズムの影響を受けている。だが当時の建築デザインの流行は、現代のファッションやIT機器と同様に変遷が早く、流行のピークから数年遅れたやや時代遅れの作品となった。

　それと旧加能合同銀行のデザインで個人的に興味深いのは、関根要太郎の建築事務所が設計を手掛けた不動貯金銀行白山支店(東京、昭和2年築)、同九段支店(東京、昭和3年築)と、窓の配置や全体的な構成に共通項が多く見られる点である。これは長年に渡る筆者の想像なのだが、村野はモダン銀行設計の先駆的存在だった関根の作品を参考したかも知れない。
　しかし関根建築事務所設計による不動銀行の各支店は、窓のグリルや細部までアールデコや表現派的なデザインで纏めているのに対し、村野設計による銀行店舗は窓のグリルなど、ルネサンス調のデザインも織り交ぜられている。

　藤森照信氏曰く「一周遅れの表現派」だからこそ成し得た、村野藤吾の建築作品の美。竣工当時はデザインのブームから数年遅れだったかも知れないが、時が経てばそのような事は全く関係なくなってしまう事を痛感させられてしまう。
　金沢到着して早々、昭和を代表する建築家・村野藤吾の偉大さを痛感してしまった筆者であった。次回はこの銀行と同時期に金沢市内に竣工した、村野設計のオフィスビルディングを紹介してみたい。

◆旧加能合同銀行本店(現北國銀行武蔵ヶ辻支店)
　◎設計：村野藤吾
　◎施工：清水組
　◎竣工：昭和7(1932)年3月
　◎構造：鉄筋コンクリート造3階建て、地下1階(竣工時)

　◎所在地：石川県金沢市青草町88

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★参考文献・資料

「村野藤吾建築案内」村野藤吾研究会編、TOTO出版、平成21年

「日本の近代建築・下」藤森照信氏著、岩波新書、平成5年

「ウィキペディア・村野藤吾」

★撮影・・・・・2019年4月