函館末広町の箱館カネサ佐々木邸(函館の建築紹介)

◆箱館カネサ佐々木邸
　・・・・明治末ころ竣工、一昨年美しい姿へと復原された商家建築


　明治から昭和初期にかけて建てられた、歴史的建造物が数多く残る函館。現在大規模な改修工事がおこなわれている、元町の函館区公会堂(明治43年築)や杉並町の遺愛女子中学校・高等学校本館(明治41年築)をはじめ、元町のハリストス正教会(大正5年築)や元町カトリック教会(明治43年築)など華やかな洋風建築に注目が集まる。しかし函館の歴史的建造物の殆どは、名の知れぬ一般の古びた家屋がその景観を彩っているのである。

　その古びた家屋も実を言うと、外壁に新たに建材パネルが貼られていたり、外壁にモルタルが塗られるなど、往時の姿を留めるものはかなり少ない。函館は寒冷地という事もあり、昔ながらの洋風下見板張りでは、冬の生活はすきま風が良く吹いて耐えられそうもない。そしてあの強風で火災が起きたことを考えると、創建当時の家の姿のまま暮らすのは相当な覚悟が必要に違いない。

　そういう事で函館の古民家の多くは、軒下の持ち送りや窓や寄棟屋根の造形を残し、歴史的建造物という事を黙してしまっている物件が殆どである。
　そして今回紹介させていただく箱館カネサ佐々木邸も、少し手の込んだ軒の持ち送りが確認できるが、外壁にモルタルが塗られ土間だった部分は駐車場に改装されるなど、往時の姿はあまり想像することが出来ない物件の一つであった。

　近年この建物は空き家の状態が続いていたが、この地域が国の重要伝統的建造物保存地区に選ばれていることもあり、函館市が新たな家主を募集し平成29(2017)年にリノベーションの運びとなったのである。リノベーションの設計は大町の港の庵(旧松橋商店、明治40年頃築)、弁天町の和田商店(明治12年ころ築)、末広町の大三坂ビルディング(旧仁壽生命函館支店、大正14年ころ築)の再生を手掛けた、函館在住の建築家・富樫雅行氏が担当した。
　残されている当時の資料が少ないとのことで、周辺住民の聞き取りを参考に今回のリノベーションが完成したという。富樫氏の若い感性も加わり、とても爽やかな好感の持てる仕上がりになっている。

　さてこの建物の竣工時期なのだが、函館市のホームページを見ると明治42(1909)年築と紹介されている。この周辺は明治40(1907)年7月の大火で全焼しているので、それ以降に建てられたということになる訳だ。
　更に大正10(1921)年4月に発生した大火では、火の手が寸前まで迫っていたが、函館海産商同業組合事務所(設計：関根要太郎＋山中節治、大正9年開館)がガードとなってくれたお陰で、このときは被害なく終わっている。下に大正10年大火の復興事業が一段落した、大正末に撮影にされた絵葉書を掲載したので、興味がある方はそちらも参照していていただきたい。

　この町の伝統的な建築スタイルと、リノベーションを手掛けた富樫雅行氏の若い感性が融合した、函館の古くて新しい建築作品。現状では色々なハードルが立ちふさがるのだろうが、このような建築が函館の町に、更に増えることを期待してしまう筆者である。

◆箱館カネサ佐々木邸(旧北昇電気)

　◎設計：不詳
　◎施工：不詳
　◎竣工：明治42(1909)年ころ
　◎構造：木造2階建て
　◎改修設計：富樫雅行建築設計事務所
　◎改修竣工：平成29(2017)年

　◎所在地：函館市末広町5-16

　　❖函館市指定伝統的建造物

このすぐそばに建つ旧深谷米穀店(ラ・コンチャ)に似た建物だったという地元住民の証言をもとに、今回のリノベーション工事はおこなわれたそうである。

★大正末期の船場町界隈を写した絵葉書

こちらは筆者の絵葉書コレクションより。手前から北海道拓殖銀行支店、函館海産商同業組合事務所、尾形商店と続き、箱館カネサ佐々木邸の姿が確認できる。

下の写真は2016年3月、2018年9月に同ポイントを撮影したもの。
★大正10年大火直後の末広町(船場町)界隈

大正10年大火では函館海産商同業組合事務所(設計：関根要太郎＋山中節治)は、間一髪のところで焼失を免れている。なお現在、箱館カネサ佐々木邸が建つ場所は函館海産商同業組合事務所の左手にあたる。この建物のお陰でこの時の大火では、焼けずに済んだのである。

❖図版・・・・「建築雑誌」大正10年12月号

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★参考文献・資料

「合名会社　富樫雅行建築設計事務所ホームページ」

「函館大火調査報告」西村好時、関根要太郎、森田慶一著、建築雑誌・大正10年12月号

★撮影・・・・2016年3月、2018年9月