函館聖ヨハネ教会(函館の建築紹介)

◆日本聖公会函館聖ヨハネ教会
　・・・・昭和54年築、元町の地に建つ白亜のモダン教会


　函館の末広町から元町へと続く大三坂。この周辺にある他の坂のように港への眺望は望めないものの、坂下の商業地域から住宅地を抜け、坂上には寺院や教会が建つという、街並みを堪能するにはとっておきの道である。

　さらにその上にはチャチャ登りという、大三坂の支道とも言える急坂が待っている。このチャチャという名称、アイヌの言葉でお爺さんが腰を曲げるという意味だそう。この坂を上るとあまりにも急すぎて、誰もがそのよう状態になってしまうという事から、この坂の愛称が付けられたそうである。
　しかしチャチャ登りを上りきると、津軽海峡から函館港を一望できる素晴らしい光景が広がっている。その眼下に建っているのが、国の重要文化財にも指定されているハリストス正教会(大正5年築)と、冒頭の写真でご覧いただいた聖ヨハネ教会である。

　十字架の形をモチーフにしたその美しい容姿から、函館の観光ポスターやガイドブックにも、たびたび登場する聖ヨハネ教会。その竣工はこの近隣に建つ戦前に建てられた教会とは違い、ぐっと新しくなり昭和54(1979)年の築。来年でやっと竣工40年を迎える、比較的歴史の浅い建築作品である。
　しかしデザイン性に富んだ素晴らしいその教会は、他の教会に劣らない美しさを誇る。本日は元町の高台に建つ聖ヨハネ教会を紹介してみたい。

　聖ヨハネ教会の母体になっているのは、英国国教会をルーツとした日本聖公会。日本聖公会というとアメリカ経由で日本やって来た、東京池袋の立教大学や東京築地の聖路加病院などが有名だ。しかし函館の聖ヨハネ教会は、明治初期にイギリス人宣教師・デニング師が宣教をはじめ教会が成立した、正真正銘のイギリスからやって来た英国国教会ということになる訳だ。
　その後函館の同教会には、アイヌの研究家・人権活動家として知られる、英国人宣教師：ジョン・バチェラー(John Batchelor、1854～1944)も赴任し、アイヌの教育向上のための学校を開設している。

　その後、函館の聖ヨハネ教会も、ロシア、フランス、アメリカから伝道したキリスト教会と同様、この町に根差した慎ましやかな教会運営を展開している。そして他の教団と同じく聖ヨハネ教会も、この町で幾度となく起きる大火に悩まされていた。明治40(1907)年、大正10(1921)年に起きた大火では聖堂を焼失している。そして大正10年大火後に現在地に移転して建てられた聖堂は、昭和9(1934)年3月の大火で焼失は免れたものの、当日の暴風によって屋根が吹き飛んでしまい、壊滅的な打撃を受けてしまった。
　それから間もなく同教会は、新たな聖堂を再建。当時の写真を見ると木造の簡素なもので、元町に建つ他の教会に比べると、かなり地味なデザインだったようだ。

　しかし昭和50年初頭に入ると、新聖堂建設の話が具体化。そして昭和54(1979)年11月にとても美しいこの聖堂が竣工したのである。設計は地元函館の建築家・小向春夫氏が担当しているとのことだ。
　上空、東西南北のどの角度からも十字架が見えるモチーフ、上が徐々に細くなる円筒形状の聖堂内など、どこを見ても美しい出来栄えだ。全体的なデザインとしては、昭和後半ならではの正統的なモダンなテイストを兼ね備えた作品だと思う。

　また戦後国内に建てられた日本聖公会の教会は、埼玉県新座市の立教大学聖パウロ礼拝堂(設計：アントニン・レーモンド、昭和38年築)をはじめ、デザイン的に優れた作品が多い。その代表作の一つとして函館の聖ヨハネ教会を入れても、意義の声は何も上がらないだろう。
　強烈な海風が吹く場所柄、近年外壁の痛みが著しかったが、今年に入り大規模な改修工事がおこなわれ、とても美しい姿へと蘇っている。

　近い将来、その美しさから文化財として指定されても、何の不思議はない素晴らしい完成度を誇る函館の聖ヨハネ教会。築年数の浅さからこれまであまり注目していなかったが、様々な角度からカメラを向けて、その美しさにこの教会の虜になってしまった筆者であった・・・・。

◆函館聖ヨハネ教会
　◎設計：小向春夫
　◎施工：不詳
　◎竣工：昭和54(1979)年11月
　◎構造：鉄筋コンクリート造一部2階建て
　◎所在地：函館市元町3-23

函館の元町に建つ、その他の現役のキリスト教会についてはこちらをご参照いただきたい。

こちらは改修前の姿。津軽海峡からの強烈な海風に長年晒されていたため、外壁が相当傷んでしまっていた。

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★参考文献・資料

「函館聖ヨハネ教会　リーフレット」

「はこだて歴史散歩」北海道新聞社編、昭和57年、北海道新聞社

「函館市史　通説編　第三巻」函館市史編さん室、平成９年、函館市

「函館大火災調査報告」日本建築学会、建築雑誌、昭和９年６月号

「日本の様式建築」村松貞次郎氏、堀勇良氏著、昭和52年、新建築社

★撮影・・・・2012年7月、2016年3月、2018年9月