東京立教大学池袋キャンパス(大正モダン建築探訪)

◆立教大学池袋キャンパス
　・・・・大正7年築、蔦が絡まる煉瓦壁が美しい英国風チューダー様式の校舎


　今年の春、桜が散りかけた3月下旬と、木々の緑が生い茂ったゴールデンウィークの２回に渡り訪れたのが、東京池袋の立教大学だった。立教大学と言えば、米国聖公会の宣教師チャニング・ムーア・ウィリアムス主教が、東京築地で始めた私塾がその始まり。そして大正半ばには狭隘になった築地に代わり、池袋の地に校舎を移転してきたのである。
　なお築地には現在、聖路加国際病院の敷地内に、立教学院があったことを記念する石碑が残されている。

　立教大学の池袋キャンパス内には、立教が同地に移転した頃に建てられた歴史的建造物が幾つか現存している。冒頭の写真でもご覧いただいた、立教大学のシンボル的存在でもある１号館(モリス館)のほか、現在立教の資料展示館として使われている旧図書館、礼拝堂、第一食堂、二号館がそれだ。
　これらの校舎や施設は全て煉瓦造で、モリス館と第一食堂とそれぞれコの字の校舎配置がなされている。前回紹介させていただいた、京都の同志社大学と比較すると校舎は小ぶりだが、その校舎配置の美は他を圧倒している。

　この美しい煉瓦の校舎群の設計を手掛けたのは、アメリカのマーフィー＆ダナ建築事務所(Murphy＆Dana)。この事務所は、コネチカット州・ニューヘブン出身のヘンリー・キラム・マーフィ―(Henry Killam Murphy)と、マサチューセッツ州・ケンブリッジ出身のリチャード・ヘンリー・ダナ(Richard Henry Dana)が、明治41(1908)年に結成した建築事務所だった。
　当初2人の出身地である、アメリカ東海岸(ニューイングランド)で中小の住宅や公共建築の設計を手掛けていたが、イエール大学の関連施設である中国・湖南省の病院の設計を手掛けるなど、東アジアにも活動範囲を広げていた。その頃に手掛けることになったのが、立教大学のキャンパス設計だったのである。

　マーフィ―＆ダナ建築事務所は、大正2(1913)年に米国聖公会伝道局交信幹事のウッド(John Wilson Wood)の打診に応え、立教校舎の設計の仕事を受諾。大正3(1914)年にはマーフィ―が来日し、明治末に立教学院が取得した池袋の建設予定地を視察し、立教の新校舎建設計画を練ってくのであった。

　ちなみにこれまで立教学院の校舎・施設の多くは、同学院の学長を務めていたJ・M・ガーディナー(James MacDonald Gardiner、1857～1925)が設計を手掛けていた。そしてガーディナーは池袋キャンパス計画の立案もおこなっていたが、こちらは採用されなかった。
　ガーディナーはハーバード大学で学び、建築事務所で１年の勤務経験を持っていたが、本格的には建築学を学んでいなかったという。しかもガーディナーが設計した立教学校の本館(東京築地、明治15年築)は、明治27(1894)年に起きた東京大地震で大きな損傷を受けてしまっている。そのような経緯もあり立教の関係者は、耐震対策にも詳しい米国のプロフェッショナルな建築事務所に、設計を依頼したのであろう。

　そのようにしてマーフィ―＆ダナ建築事務所は、立教大学のキャンパス建設に着手。事務所の代表として、コロンビア大学出身のウィリアム・ウィルソン(William Wilson)を大正5(1916)年に日本に派遣させ、現場の陣頭指揮をおこなわせた。そして大正7(1918)年には大半の施設を竣工させている。
　また事務所の代表として来日したウィルソンは、大正9(1920)年まで日本に滞在し、立教大学の母体である日本聖公会の川口教会(大阪、大正9年築)、同会の川越教会(埼玉、大正10年築)など、とても美しい聖堂の数々も制作している。

　そして出来上がった立教大学の校舎は、イギリス風のチューダー様式のデザインで纏められることになった。これは立教の母体である米国聖公会のルーツが、英国聖公会であることに関係しているのではないかと筆者は想像する。
　しかも設計を手掛けた建築事務所のマーフィー＆ダナは、英国の影響を色濃く残す米国ニューイングランド東海岸の出身。英国から遠く離れた東京武蔵野台地東端の池袋の地に、米国経由のイギリス風建築が残っていた訳である。このような見方をすると、立教の校舎群が更に輝いて見えてきた筆者であった・・・・。

◆立教大学池袋キャンパス
　◎設計：マーフィー＆ダナ建築事務所(Murphy ＆ Dana)
　◎監督：ウィリアム・ウィルソン(William Wilson)
　◎施工：清水組
　◎竣工：大正7(1918)年・・・・本館、2号館、図書館旧館、第一食堂
　　　　　大正9(1920)年・・・・礼拝堂
　◎構造：煉瓦造2階建て、および平屋
　◎所在地：東京都豊島区西池袋3-31-1

　　❖東京都選定歴史的建造物

　　❖東京都「特に景観上重要な歴史的建造物等」

蔦が絡まる季節も美しい立教大学のキャンパス群。

こちらは大正9(1920)年に竣工した礼拝堂。入口のステンドグラスが美しい。

現在は立教学院の歴史資料館として使われている旧図書館。天井のハンマービームの架構が美しい。

立教大学池袋キャンパスのもう一つの名所?、第一食堂。旧図書館と同様、天井のハンマービームの架構が美しい。

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★参考文献・資料

「日本の美術　№447、外国人建築家の系譜」堀勇良氏著、至文堂、平成15年

「学び舎拝見」内田青蔵氏著、河出書房新社、平成19年

「第一食堂の意義」鈴木勇一郎氏著、立教ジャーナル2015・朝日DIGITAL、平成27年

「立教大学池袋キャンパス設計にかかわる在米資料について」鈴木勇一郎氏著、立教レポート

「立教大学池袋キャンパスの建設とヘンリー・K・マーフィー」鈴木勇一郎氏著、立教レポート

「立教大学ホームページ、立教大学の歴史・沿革」

「明治の異人館」坂本勝比呂氏著、朝日新聞社、昭和40年

★撮影・・・・・2018年3月・5月