東武鉄道・ときわ台駅(昭和モダン建築再訪)

◆東武東上線ときわ台駅
　・・・・・昭和10年築、今年春新たな命を吹き込まれたレトロモダン駅舎


　武蔵野台地の中央に位置する西武線沿線の東京都下の町から、武蔵野台地東端の東武東上線の町へと引っ越して早や5年。相変わらず出掛ける場所は同じだが、そのとき最初に乗らなければならないのが東武東上線だ。
　東武鉄道と言えば、近畿日本鉄道(近鉄)に次ぐ営業キロ数を誇る、国内屈指の民営鉄道で、茨城・神奈川を除く関東都県に鉄道網を張り巡らせている大会社だ。そしてあまり知られていないようだが、東武鉄道は東京の新名所・東京スカイツリーの建築主でもある。

　しかしそのような大鉄道会社・東武鉄道の内情は、度々起こる鉄道事故に、老朽化のためすぐ調整中になってしまう切符の券売機、こちらも老朽化して画面が読み取れない行先表示板、そしてメンテナンスが全く行き届いていない、相当汚れ切ってしまった車両など散々なものだ。しかも最新型の電車でも低予算で作られたせいか椅子は固く、冬になると車内には隙間風がよく吹くというものだ。
　近年他の私鉄会社に投入される乗客に優しい最新型車両や、駅のサービスの高さを見てしまうと、東上線に乗るととにかく暗い気持ちにさせられてしまう。ちなみに筆者が東上線に乗るときは、途中から東京メトロに乗り換え都心へ向かうのが常である。

　正直なところ良い企業イメージを全く感じさせない東武東上線だが、昨年から気になることが一つあった。それは筆者の住まいより数駅隣のときわ台駅が、改修工事に入るとのことで工事用フェンスに覆われてしまった事である。
　フェンスに覆われてしまったときわ台駅の駅舎だが、東武鉄道が常盤台の宅地を分譲するに際し、昭和10(1935)年に建てたものだった。当初は武蔵常盤台という駅名だったが、戦後に入り現名称に変更されている。

　東武鉄道のプレスリリースを見ると、昨年の工事開始の段階では、この駅舎を解体するのか残すのか、どちらとも取れるはっきりしない内容だった。スカイツリーばかり売り込んでいる東武の事なので、そのような現在の社風では、古びた駅舎は解体するものだろうと思い込んでいた筆者であった。
　しかしそのどちらとも取れないプレスリリースは、既存の駅舎を保存するという事が途中から判明。約１年の工事を経て、今年(平成30年)6月から一般の使用が再開した。また今回の改修に関しては竣工時の姿に近い復元を目的とし、近年切符売り場と駅員詰所として使われていた寄棟屋根の部分は、当時と同様に改札口として使われることになった。

　ちなみに東武鉄道で戦前に建てられた歴史ある駅舎は何軒か存在するが、リニューアル工事がおこなわれたのは、平成24(2012)年に改修工事完成した東武浅草駅・浅草松屋(設計：久野節、昭和6年築)に次いで2軒目である。

　青瓦の寄棟屋根が可愛らしい印象を受けるこの建物、大正末に来日し日本国内の建築業界に多大な影響を与えた、アメリカ人建築家：フランク・ロイド・ライト(Frank Lloyd Wright、1867～1959)の作風に相通じるデザインになっている。またライトが自身の作品にも多用し、東武沿線の栃木県宇都宮市で産出される、大谷石が駅舎の装飾に多用されているのも興味深い。
　それらの装飾は幾何学的で、この時代に流行していたアールデコの影響を感じられるモダンなものである。しかし、ときわ台の駅舎はアールデコ建築にありがちなシャープな感じはせず、武蔵野台地東端の長閑な空気とマッチする出来になっているのである。

　郊外の田園都市を連想させるデザインであるときわ台の駅舎だが、実はときわ台駅開設に際してデザインされたのではなく、そのオリジナルとなる駅舎があった。それは東武宇都宮線の南宇都宮駅(旧野球場前駅)。ときわ台駅完成の少し前に建てられたこの駅舎は、ときわ台駅と瓜二つのデザインなのである。

　それと興味深いのが、南宇都宮駅前の3本の道路が放射状に延びており、更に2本の道路が駅に対し環状する形で走っている点である。この道路配置は後に完成するときわ台に似ており、当時東武鉄道がこの土地で宅地開発をおこなった可能性が考えられるのである。

　
　そして今回新たなる関心を持ったのが、ときわ台の先例となった南宇都宮の駅舎と、その周辺の住宅街の存在である。近いうちに今度は東武本線に乗って、鉄道会社の歴史研究の旅をすることになりそうだが、乗る電車があの東武鉄道だと考えると、気分が萎えてきた筆者であった。
　そのような話はひとまず別にして、今回の東武鉄道のときわ台駅保存の英断は称賛に値する。これを活かして企業ブランドの獲得と言いたいところだが、その前途は多難そうな気がしてならない・・・・・。

◆東武鉄道ときわ台駅(旧武蔵常盤台駅)

　◎設計：不詳
　◎施工：不詳
　◎竣工：昭和10(1935)年10月20日
　◎構造：木造モルタル塗り平屋
　◎所在地：東京都板橋区常盤台1-43-1

駅舎西側には常盤小路と名付けられた郷土史の展示コーナーが設置された。

こちらが昭和30年のときわ台駅。武蔵野の郊外住宅街の雰囲気を醸し出す、素敵な写真だ。

★東武鉄道南宇都宮駅(昭和8年ころ築)

今回も同好のお友達es_february(fujimaki)さん撮影の写真をお借りした。

東武宇都宮線のこちらの駅だが、ときわ台駅と瓜二つの作りである。それと興味深いのが南宇都宮駅周辺の地図を見てみると、この駅前から小規模ながら3本の放射状の道路が延び、それと交わるように2本の環状道路が走っているのである。これは田園調布、国立、ときわ台など戦前の駅前宅地造成地に似たものなのだ。

つまり南宇都宮の駅前で宅地開発がおこなわれ、そのシンボルとして、この駅舎が建てられたという事が推測できないだろうか。

★Special　Thanks　to　es_february

建物各所の大谷石の装飾はアールデコ調。

***********************************************************

★参考文献・資料

「東京都市計画物語」越澤明氏著、平成13年、ちくま学芸文庫

「ときわ台駅・安堵される」ブログ　板橋ハ晴天ナリ。オーク氏著、平成29年11月

「ウィキペディア、東武東上線」

「グーグルアース、宇都宮市」

★撮影・・・・・2018年6月