旧不動貯金銀行京都七条支店(建築家・関根要太郎作品再見)

◆旧不動貯金銀行七条支店
　・・・・・昭和5年竣工、京都烏丸七条に現存するモダンな銀行店舗


　京都・烏丸七条に建つ巨大木造寺院、東本願寺御影堂と阿弥陀堂(明治28年築)。この寺院見学と前後して撮影してきたのが、建築家・関根要太郎(1889～1959)の設計作品：旧不動貯金銀行七条支店だった。
　旧不動貯金銀行七条支店は昭和5(1930)年2月の竣工。戦後二十数年ほどは、不動貯金銀行の後身にあたる協和銀行の店舗として営業を続け、その後は京都中央信用金庫の施設として使われ現在に至っている。ちなみに現在は中信興産という、京都中央信用金庫の関連会社のオフィスビルとして使われている。

　建物周辺に配置されたアーチ窓と、七条通り側右手2階に取り付けられたクアトレフォイル(四葉飾り)が印象的な作品である。ちなみに竣工時はこの他にも、七条通り側の3つ連なるアーチ窓の下には格子模様の小さなバルコニーが置かれ、1階窓にはシックな感じのグリルが取り付けられていた。
　そしてこの作品のもう一つの見所と言えるのが、建物の背面である。ソフトなイメージが漂う七条通り側とは一転、東本願寺の堀と面した建物の背面にあたる北面は、とても機械的で硬質な雰囲気が漂う。

　このときの京都訪問では、滞在最終日に京都タワーからの関根作品撮影を予定していた。しかし帰り間際に季節外れの雷雨にやられ、今回は撮影を断念してしまったのだが、タワー展望台から見る関根作品もなかなかのもののようだ。こちらの撮影は次の京都訪問の楽しみとしておきたい。
　そのように地上・高層階など、あらゆる角度から絵になるのが、七条の旧不動貯金銀行店舗なのである。なお数年前には建物の一部修繕がおこなわれ、冒頭の写真でご覧いただいたように、とても美しい姿へと蘇った関根作品である。
　
　ソフトさと硬質な印象が交錯する、旧不動貯金銀行七条支店。この建物が竣工したころ関根は40歳を過ぎ、これまでのモダンな路線からクラシカルな路線へと、作風をシフトチェンジしつつあった時期だったということは、8年前にも紹介させていただいた通りだ。
　関根は大正3(1914)年に、不動貯金銀行の店舗営繕を手掛ける〔日本建築株式会社〕に就職。以降、大正9(1920)年の関根建築事務所設立、昭和6(1931)年の不動貯金銀行営繕課長就任と続き、同行を退職する昭和17(1942)年まで、約四半世紀に渡り同行店舗営繕に携わっている。時期的にもその折り返しと言えるのが、京都の七条支店になる訳だ。

　優しさと固さが同居する、関根設計による不動貯金銀行の店舗。そのデザインの根源には、当時の経済状態が背景にあったのではないかと筆者は推測する。皆さんもご存じのように昭和に入った日本は、以前にも増して経済状態が悪化している。昭和2(1927)年には銀行への預金払い戻し騒動に続く、日本政府によるモラトリアムの公布。更に日本国内の不況は続き、昭和4(1929)年秋には世界規模の大恐慌が起こり、国内経済は更に逼迫した。
　そのような時代に関根が設計した不動銀行七条支店は、優しさ＝親しみやすさ・預金を預けやすい、固さ＝銀行経営の安定・預金の保証、というメッセージを込めてこのようなデザインを施したのではないかと、筆者は推測するのである。

　中小の商工業者や一般庶民を対象に営業をおこなっていた不動貯金銀行は、世界的な不況をものともせず業績を伸ばす。遂に昭和10年代には、三井・住友・三菱・安田・第一の五大銀行の預金額にも肩を並べ、日本を代表する貯蓄銀行(大手銀行)へと成長を遂げている。そのような時代の移り目に、不動貯金銀行専属の建築家・関根要太郎がおこなったのが、自身の作風のシフトチェンジだったのではないだろうか。

　そして品のある関根設計のモダンな銀行店舗は、築88年経った現在も京都七条の景観を美しく彩っている。近年、再評価されつつあるが、その存在をもっと多くの人に知って欲しい、愛嬌のある素敵な建築作品である・・・・。

◆旧不動貯金銀行七条支店(現京都中央信用金庫、中信興産株式会社)
　◎設計：関根要太郎(関根建築事務所)
　◎施工：藤木工務店大阪本店
　◎竣工：昭和5(1930)年2月11日
　◎構造：鉄筋コンクリート造2階建て、中2階、一部地下1階
　◎所在地：京都市下京区烏丸七条西入ル中居町113




この建物の見所の一つが、玄関上2階部分に取り付けられたクァトレフォイル(四つ葉飾り)。固くなりそうな銀行のイメージを、これで柔らかくしている。

東本願寺の堀に面した北面は、七条通り側とは一転し硬質なイメージへと変わる。小さく取られた窓が、昭和初期の銀行らしいデザインである。

★竣工当時の不動貯金銀行七条支店

当初は、一階窓上には格子模様の装飾が施されたバルコニーが取り付けられていたほか、窓には黒のシックなグリルが入れらていたことが分かる。

❖図版・・・・・「不動貯金銀行創立四十周年記念写真帖」より

★竣工当初の室内

こちらは友人のes_february(fujimaki)さんからお借りしたもの。室内は全体的に戦前築の銀行店舗らしい、落ちついたデザインで纏められている。注目して頂きたいのは、写真中央上の小窓もクァトレフォイル(四つ葉飾り)風の装飾が施されている点である。

❖図版提供・・・・・es_february(fujimaki)さん

★不動貯金銀行七条支店の完成予想図

昭和4年、関根要太郎は東京高等工業学校の後輩建築家・川喜田煉七郎(1902～1975)が結成した、〔AS会、明日の建築を考える会〕に特別会員として参加。その作品展で出品したのが、この七条支店の完成予想図だった。

❖図版・・・・「建築画報」昭和4年7月号

★不動貯金銀行の広報誌「ニコニコ風景図鑑」より

こちらは昭和5年に不動貯金銀行が出版したPR誌に掲載されたもの。関根の設計作品が、世界的にも有名な金閣寺・銀閣寺と一緒に紹介されているのが面白く、今回はこちらで発表してみた。

❖図版・・・・・「ニコニコ風景図鑑」不動貯金銀行刊、昭和5年

東本願寺境内から。木々の間から不動貯金銀行が見える。

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★参考文献・資料

「建築画報」昭和4年7月号、建築画報社

「日本建築士」昭和5年4月号、日本建築士会

「ニコニコ風景図鑑」不動貯金銀行編、昭和5年、不動貯金銀行

「牧野元次郎翁　伝記ではない伝記」天沼雄吉氏著、全国不動会、昭和48年

「ブログ　光の射すほうへ」quatrefoil-window氏作成、2012年

★撮影・・・・・2018年4月