函館市公民館(函館の建築再訪)

◆函館市公民館
　・・・・・昭和8年築、護国神社坂上に建つ白亜のモダン公民館


　函館でも一二を争う美しい坂と言えば、元町と青柳町の町境から宝来町にかけてある護国神社坂(招魂社坂)だろう。その名の通り護国神社(招魂社)が坂上に建つこの坂は、大森浜と津軽海峡を眼下に見渡すことができる、本当に素晴らしい眺めの坂である。
　この護国神社の坂、道そのものは明治2(1869)年の招魂社の創建ころに作られたと言われているが、詳しい事ははっきりとしていない。また昭和9(1934)年3月の大火でこの周辺が全焼したのを機に、防火対策を目的とした現在のような道幅の広い坂へと作り直された。

　その護国神社坂上には、一軒の美しい歴史的建造物が建っている。その建物とは、函館市公民館である。冒頭の写真を見た分には、モダンな外観から、戦後築の作品だと思われたかも知れないが、その竣工は昭和8(1933)年のこと。今年で築84年を迎える歴史ある公民館なのである。また竣工当初この公民館は、函館市青年会館と呼ばれていた。
　以前は老朽化した部分も多々あったが、近年大規模な改修工事がおこなわれ、竣工当初に近い姿に復元された。またこの公民館、最近では映画のロケに使用される、映画ロケの隠れスポットでもある。

　さて白亜の清潔感溢れるモダンな公民館、その建設の経緯は昭和初期に遡る。昭和5(1930)年に結成された函館市連合青年団が、募金により青年会館建設を目指していたのだが、昭和の大恐慌の影響もあってか寄付が集まらず、会館建設には実現には程遠い状態が続けていた。
　それを新聞記事で知った函館在住の実業家・石館友作(1872～1950)は、自身の土地と建設資金の寄付を決意。こうして昭和6(1931)年には青年会館の建設プロジェクトが、本格的にスタートしたのであった。なお石館友作、大正期には函館区議を務め、函館貯蓄銀行頭取、商工会議所議員、大正10(1921)年の函館大火後は火防実行委員会の幹事を務めるなど、函館を代表する実業家の一人であった。

　そして青年会館は、石館が寄付した汐見町(現青柳町)の高台に建設が決定。昭和6年9月には、日本建築学会の機関誌〔建築雑誌〕に公開設計競技の募集要項が発表され、曾根中條建築事務所の経営者である中條精一郎(1868～1936)、北海道建築課長の福岡五一、建設資金の寄付者である石館友作など9名が審査にあたり、その当選案をもとに函館市の建築係が実施設計をおこなった。
　かくして昭和7(1932)年9月に青年会館の建設工事は始まり、翌昭和8(1933)年10月に会館は竣工した。なお竣工に関しては翌年5月に、設計案の募集をおこなった〔建築雑誌〕に、大々的な完成記事が発表されている。

　ちなみに実施設計をおこなった函館市建築係は、大正10(1921)年4月に起きた大火を機に、耐火建築である鉄筋コンクリート建築の普及を目指し、本格的に組織された市のポジションだった。そして大正末には当時日本を代表する建築事務所だった、曽禰中條建築事務所に建築技師の派遣を依頼。そこで三人の技師がやって来るのだが、その中心的人物が小南武一(1897～1976)だったのである。
　小南は兵庫県加古川の出身で、東京の工手学校(現工学院大学)卒業後、曾根中條建築事務所に就職。函館に渡って以降は戦前・戦後を通じ函館市に奉職し、函館の建築設計を数多く手掛けている。そして30代半ばの小南が設計に携わったのが、現在の函館市公民館だったのであった。

　また函館市公民館は、モダニズムという当時最先端のデザインを基調としつつも、歴史的様式も織り交ぜた、折衷的な作りになっているのは見逃せない点である。当時最先端のモダンさを押し出しながらも、丸みを帯びた優しさあるデザインも随所に織り交ぜているのは、小南武一をはじめとしたこの当時の函館市建築係の作品の特徴と言えるだろう。

　ローカルデザインと言ったら語弊があるかも知れないが、地元風土に合わせた配慮がされている、函館市公民館。いつ見ても心が落ち着く、函館の名建築の一つである。実は函館山ロープウェイ乗り場から徒歩すぐの場所に建っている、函館へ訪れた際には美しい坂上の風景と共に、ぜひとも鑑賞して頂きたい美しい建築作品だ・・・・。

◆函館市公民館(旧函館市青年会館)
　◎原案設計：公募
　◎実施設計：小南武一(函館市役所建築係)
　◎施工：瀬崎初三郎(瀬崎組)
　◎竣工：昭和8(1933)年10月
　◎構造：鉄筋コンクリート造2階建て
　◎所在地：函館市青柳町12-17

こちらが2015年改修後の姿。塔屋のグリルが竣工時に近い姿に復元されたほか、塔屋周辺の屋根カバーが撤去されている。

★竣工時の函館市公民館

昭和9年5月の建築雑誌に発表された、函館市公民館(函館市青年館)の竣工記事。写真でご覧いただてように2015年に竣工時に近い姿へ復元工事がおこなわれている。また竣工間もない昭和9年3月21日、函館では市内三分の二を焼く大火が発生。この周辺が全焼するなか、公民館は無傷に済んだのである。

また大火後は火災で焼けてしまった裁判所の仮庁舎として使われ、青年会館として使われるのは暫らく後のことになった。戦後、進駐軍に接収されたのち、返還後は公民館として使われるようになった。

❖図版・・・・「建築雑誌」昭和9年5月号

公民館の右手に建つ土蔵風の洋館は、石館友作が所有していた明治ころに建てられたもの。現在は事務所として使われている。

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★参考文献・資料
「建築雑誌　昭和9年5月号」日本建築学会、1934年
「総覧　日本の建築1 北海道・東北」日本建築学会編、新建築社、1986年
「イキ!ネット　函館市公民館活性化ネットワーク」2006年
「函館市公民館」函館市公式観光情報・はこぶら、2016年
「はこだて人物誌　小南武一」ステップアップ、函館市文化・スポーツ振興財団、2012年
★撮影・・・・2014年6月、2016年10月