福岡県北九州市の門司区役所(昭和モダン建築探訪)

◆旧門司市役所
　・・・・・・昭和5年築、門司港の高台に建つユニークなレトロモダン庁舎


　昭和38(1963)年に、小倉・八幡・門司・戸畑・若松という5つの都市が合併し、出来たのが福岡県北九州市。合併時の人口は百万人を超え、横浜・名古屋・京都・大阪・神戸に次いで、日本で6番目の政令指定都市になっている。なお福岡県の県庁所在地である福岡市が、政令指定都市になったのは北九州市より9年後の、昭和47(1972)年のことであった。

　皆さんもご存じのように、合併前も合併後も北九州市の各地域の主産業は工業。しかしその中にも現代の画一的な都市景観の中に、明治の頃より育まれた町の個性は根強く生き続けており、町の探索のやり甲斐がある都市だった。
　そういう事で区役所として使われている建物も個性的で、今も戦前築のユニークな市役所庁舎が市内に幾つか現存している。その中で今も現役の庁舎として使われているのが、門司区役所の庁舎。門司港レトロ地区の高台に建つ、曲線デザインが楽しい作品である。

　JR鹿児島本線の始発駅である、 門司港駅の南側にあたる、清滝という高台の町に建つのが、ベージュと茶色のツートンの塗装が施された門司区役所。門司港地域が本州と九州の連絡口として賑わっていた昭和5(1930)年に、門司市役所として建てられた。工費は一部の用地費を含め、約50万円をかけたそうである。
　ちなみに門司市の当時の人口は約11万人。北九州市の母体となった5都市では、八幡の16万人に次ぐ人口を擁し、九州では6番目の規模を誇る大都市だった (ちなみに対岸にある門司のライバル的な町だった、下関の人口は9万8千人) 。
　
　そのような九州の玄関口・門司に建てられることなった門司市役所。門司市役所も、この時期に建設された庁舎建築と同様に、中央に塔屋を置いた帝冠様式というスタイルで建てられている。しかし帝冠様式の威圧的な雰囲気は漂わず、どちらかというとドイツ表現派やアールデコなどの、当時の西欧の最新様式をエッセンスにした独特な造形が興味深い。
　なお竣工当時は、建物の軒廻りの褐茶色のカバーは、テラコッタで飾られていたという。なお現在の茶褐色のカバーは、20年ほど前に往時の姿を参考にして作られたものである。

　そしてこの門司区役所を設計したのは、福岡出身の建築家・倉田謙(？～1940)。倉田は明治44(1911)年に九州大学の技師となり、学生に建築学を教える傍ら、同大学の教室や施設の設計も担当。そしてその業績が認められてか、倉田は九州大学工科大学の臨時建築掛を監督する事になる。更に大正7(1918)年には建築掛は、大学建築課と発展し、初代課長として退官する昭和4(1929)年まで、 同大学の施設を40棟近く設計したという。また九州大学の施設の他にも、福岡日日新聞社(福岡、現西日本新聞社)や、熊本市役所(熊本、大正13年築)などの設計も手掛けたという。

　その倉田の作風は門司区役所と同様に個性的で、特に九州大学工学部の本館(昭和5年築)は倉田の集大成とも言える作品である。ここ数日ほど、色々な方のサイトで掲載されている倉田作品の写真を見てみたが、時代の流行を取り入れながら、上品かつ重厚に仕上げていることなどを見ても、倉田の建築家としてのセンスは、なかなかのものだったのではないかと思う。
　それと今回は早朝の訪問のため、庁舎内を見学できなかったが、内部の様子はgipsypapaさんのブログ[レトロな建物を訪ねて] をご覧いただきたい。門司港の高台に建つレトロモダンな庁舎、嫌味のない町のランドマークであった。また門司港を訪ねる事があれば、じっくり内部を見学してみたいと思わせてくれる、魅力な作品であった・・・・・。

◆旧門司市役所(現北九州市門司区役所)
　◎設計：倉田謙
　◎施工：大林組
　◎竣工：昭和5(1930)年5月
　◎構造：鉄筋コンクリート造3階建て
　◎所在地：福岡県北九州市門司区清滝1-1-1
　　❖国登録有形文化財

区役所前には門司市時代の市歌の歌碑も置かれていた。

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★旧戸畑市役所(昭和8年築)

門司区役所の他に北九州市内で使われていた、戦前築の庁舎建築。福岡県営繕課の設計により、昭和8年に建てられた。区役所の移転に伴い、空き家になった旧区庁舎は建物の耐震補強工事をおこない、現在は区の図書館として使われているとの事だ。
★2002年撮影の門司区役所

上2枚は2002年の夏に撮影したもの。この数年前はフラットな外観だったが、往時のイメージに似せるため、建物頭頂部に茶褐色のペインティングが施された。またその後、改修がおこなわれ現在の軒まわりのカバーが付けられている。
夜景で分かりづらいが、写真中央左上に門司区役所が写る。門司港を見下ろせる高台にこの庁舎は建っている。
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★参考文献・資料
「九州大学、大学資料室ニュース、第15号」2000年3月、九州大学資料室発行
「北九州市門司区・ホームページ」
「北九州イノベーションギャラリー・ホームページ」
「ウィキペディア・都道府県庁所在地と政令指定都市の人口順位」
★撮影・・・・・・2002年9月、2015年4月