不動貯金銀行新宿・浅草支店(建築家・関根要太郎作品研究)

◆不動貯金銀行新宿・浅草支店
　　・・・・・昭和10年代初頭東京に建てられた、関根設計のシックな銀行店舗

　先日、東京新宿御苑の御成婚記念御涼亭・台湾閣(設計：森山松之助、昭和2年築)を紹介したが、その新宿にあった関根要太郎(1889～1959)の設計作品が、冒頭の写真でご覧いただいた不動貯金銀行新宿支店である。

　竣工は昭和11年の12月、新宿御苑の大木戸門近くの新宿通り沿いにあったものだ。今回はこの新宿支店をはじめ、当時関根が首都圏で手掛けた不動貯金銀行の店舗を幾つか紹介する事にしたい。

　そういう事で最初に取り上げるのは、石造り風の外観が印象的な不動貯金銀行新宿支店である。コンポジット式のオーダーに、外壁には茨城稲田産の花崗岩を張った、いかにもこの当時の銀行建築らしい重厚な出来栄えだ。
　また関根要太郎設計の銀行店舗と言うと、函館の旧百十三銀行本店(大正15年築) や、 不動貯金銀行の白山・九段・上野の各支店(昭和2年～昭和4年築) 、 不動銀行七条支店(昭和5年築)など、モダンな要素を前面に押し出した作品を相当数制作している。しかし新宿支店に関しては、そのようなモダンな要素は全く無縁な作品である。

　これは以前にも紹介しているが、関根は大正9(1920)年に自身の建設事務所を開設。そしてその数年前から担当していた、不動貯金銀行の店舗設計を引き続きおこなっていく。また昭和6(1931)年には不動貯金銀行の頭取・牧野元次郎(1874～1943)の計らいで、不動銀行専属の建築家(営繕課長)に就任する。
　またこの頃を境に今までのモダンな作風を捨て、クラシカルな路線へと作風変更。しかしその出来栄えはイマイチなものも多く、関根はデザインの試行錯誤を繰り返す。そして関根のクラシカル路線の銀行店舗の完成形が、 不動貯金銀行の姫路支店(昭和9年築)やこの新宿支店だったのである。

　しかしそのような新しい作風の完成は、残念ながら戦局が激しくなり、軍事体制へと突き進んでいく国内情勢によって引き裂かれてしまう。昭和12年には政府により軍事優先のための、建築資材の統制令が発布され、従来のような大規模建築の建設が困難になってしまう。
　それを象徴するかのように、不動貯金銀行新宿支店の約一年後に、関根の設計により竣工した不動貯金銀行の浅草支店は、これまでの装飾的な要素を取り除いたシンプルなものになる。またそれ以降の作品も、更に建築資材の統制がおこなわれたようで、より一層に簡素なものへとなっていくのである。

　なお関根はこの頃の設計作品について、「実験的建物」と自身の手記の中で書いているが、限られた資材で建造物を設計するという作業の中、建築家としての新しい方向性を見出したと想像される。そして戦中の関根の取り組みは、戦後埼玉でおこなったローコストによる公共建築の設計へと繋がっていくのであった。
　見た目は地味だが、ある建築家の生涯とその時代背景を辿ってくと、とても興味深いものに思えてくる筆者である・・・・・。
　

◆不動貯金銀行新宿支店

　◎設計：関根要太郎(不動貯金銀行営繕課)

　◎施工：白井甚次郎
　◎竣工：昭和11(1936)年12月6日
　◎構造：鉄筋コンクリート造3階建て、地下1階

　◎旧所在地：東京都新宿区新宿1-1(東京府東京市四谷区新宿1丁目50番地)

❖図版→A

❖図版→B

★戦後の不動銀行新宿支店

戦後、この店舗は不動銀行の後身にあたる協和銀行の四谷支店として使われている。
昭和50年代前半に関根設計の店舗は解体されたようだ。

❖図版→C

★不動貯金銀行新宿支店の設計図

いわゆる近世復興式の外観。デザイン的にはこの2年前に竣工した不動銀行姫路支店や、同年に竣工した不動銀行函館支店(昭和9年大火で被災した店舗に代わる復興店舗)と共通項が多くみられる。
それと注目していただきたいのが、上から3枚目図面の3階左側部分。小さな演壇のような場所があるが、これは不動銀行のメインキャラクターである大黒様を祀る部屋なのである。当時の不動銀行の各店舗には、このような大黒様を祀るコーナーが設けられていた。

❖図版→A

★不動銀行新宿支店の跡地

新宿と言っても四谷に近い新宿御苑の大木戸門近くに、関根設計の不動銀行支店はあった。残念ながら当時を偲べるものは何一つ残されていない。

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◆不動貯金銀行浅草支店
　◎設計：関根要太郎(不動貯金銀行営繕課)
　◎施工：白井甚次郎
　◎竣工：昭和13(1938)年1月9日
　◎構造：鉄筋コンクリート造3階建て、地下1階
　◎旧所在地：東京都台東区駒形1-4(東京府東京市浅草区駒形1丁目)

❖図版→B

❖図版→C

★戦後の不動銀行浅草支店

戦後は先の新宿支店と同様、協和銀行の駒形支店として使われている。ちなみにこの店舗は長寿で、バブル期の1990年ころまで現存していたようである。

★不動貯金銀行浅草支店の跡地

先に紹介したように関根設計の店舗は解体されたが、その跡地には不動貯金銀行や協和銀行の後身である〔りそな銀行〕の店舗が入居している。

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★昭和13年以降に首都圏に建てられた関根設計の不動銀行店舗
◆不動貯金銀行川崎支店
　◎設計：関根要太郎(不動貯金銀行営繕部)
　◎施工：不詳
　◎竣工：昭和13(1938)年9月10日

◆不動貯金銀行渋谷支店
　◎設計：関根要太郎(不動貯金銀行営繕部)
　◎施工：不詳
　◎竣工：昭和14(1939)年12月11日

◆不動貯金銀行池袋支店
　◎設計：関根要太郎(不動貯金銀行営繕部)
　◎施工：不詳
　◎竣工：昭和14(1939)年12月11日

図版→B(3点とも)
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★図版

冒頭の写真→筆者所有絵葉書

A→「日本建築士」昭和12年10月号
B→「不動貯金銀行創立四十周年記念写真帖」不動貯金銀行、昭和15年
C→「協和銀行史」協和銀行、昭和44年
D→「建築世界」昭和13年4月号
★参考文献・資料
「不動貯金銀行創立四十周年記念写真帖」不動貯金銀行、昭和15年
「木田保造」木田組編纂、昭和16年
★撮影・・・・・・2015年4月