埼玉県上尾市立上尾中学校(建築家・関根要太郎作品研究)

◆埼玉県上尾市立上尾中学校
　　・・・・2014年夏、半世紀の役目を終え解体された関根最晩年の設計作品


　2014年最後の記事は、今年夏に解体された建築家・関根要太郎(1889～1959)設計による公立中学校の校舎を紹介させて頂きたい。その校舎とは、埼玉県上尾市の市立上尾中学校(昭和31年築、32年増築)である。戦後、郷里埼玉の公立学校と公共建築の設計を多く手掛けていた関根だが、その中で現存する数少ない作品の一つが上尾中学だった。

　2012年に関根要太郎設計より上尾中学より2年前に竣工した、 市立上尾小学校旧校舎(昭和29年12月竣工)と、二年後に竣工した同小学校の第二校舎(昭和34年4月竣工)が解体。関根設計による上尾中の校舎も、余命いくばくかなと思っていた矢先の2013年に、市教育委員会のホームページで上尾中学の建て替えが発表されたのであった。
　今回も関根設計による校舎の最後の姿を見納めに行こうと思っていたのだが、校舎手前に仮設のプレハブ校舎が建てられ撮影しずらい事もあり、足が遠のいたまま時間が過ぎてしまった。そうこうしている間に、関根設計の中学校校舎は解体されてしまったのである。

　以前にも紹介したように、関根は校舎建設の予算不足に悩まされていた埼玉の桶川町のために、通常の約半額の予算で木造2階建ての校舎を昭和27年4月に竣工。またこの年には、桶川の隣町・上尾町の町役場庁舎設計の仕事を依頼され、鉄筋コンクリート造2階建ての庁舎をこちらも低予算で竣工させる。

　またこの低予算で建てられた関根設計の公共建築は県内関係者の注目を集め、それ以降桶川、上尾の他にも両神、羽生、長瀞(旧野上)、鳩ケ谷、 大滝 、朝霞 、 戸田などの小中高校の校舎・講堂、庁舎などの設計を、昭和34年2月に69年の生涯を閉じる直前まで数多く手掛けている。その中でも上尾の市関係者の関根の信頼は高く、町役場のほか、小学校、保育所、中学校、文化会館、高等学校など７軒の設計を手掛けることになった。

　その中でも上尾中は、計16教室の校舎を二期の工期に分けて建設。昭和31年12月竣工の東側校舎は1070万円の予算、昭和32年12月竣工の西側校舎は1090万円の予算をかけて建てられた。なお上尾中学をはじめ、戦後の関根設計作品の大半は、 構造学者・岡隆一発明の[平衡構造工法]を用いて建設されている。

　但しこの平衡構造工法は、ローコスト建築の施工を実現させる利点はあったが、耐久性に関しては長けておらず、埼玉における関根作品は，建てられてから二十数年から三十年でその殆どが解体されている。その中でも上尾の校舎建築は、ある程度の予算を費やしたこともあってか、竣工から五十数年という長きに渡って使われ続けることになった。

　さて関根要太郎設計による上尾中学校の校舎、デザイン的には高度経済成長期の公立学校にありがちな、シンプルな出来栄えである。しかし白亜の清潔感溢れる外壁と、大きく取られた窓に、戦後と言う新しい時代への関根の思いが詰め込まれているようにも、筆者には思えてきたのであった。　

　関根設計による上尾中校舎はもう現存しないが、地元埼玉出身のベテラン建築家が、戦後埼玉の復興を陰から支えていた事を多くの人に知って頂けたら、とても幸いである。

◆上尾市立上尾中学校
　◎設計：関根要太郎+山中眞三郎(関根建築事務所：関根建築研究所)
　◎施工：島藤建設
　◎竣工：昭和31(1956)年12月25日・・・・・東側校舎
　　　　：昭和32(1957)年12月25日・・・・・西側校舎
　◎解体：平成26(2014)年7月
　◎構造：鉄筋コンクリート造2階建て

　◎旧所在地：埼玉県上尾市愛宕3-23-34

こちら側が昭和31年に竣工した東側校舎。そしてこちら側が昭和32年竣工の西側校舎。★上尾の市報で紹介された上尾中学の建設、竣工記事
　❖「上尾自治だより」昭和32年1月20日
　❖「上尾自治だより」昭和32年12月20日
　❖「上尾自治だより」昭和33年1月20日
★上尾中の落成式

　❖「輝く30年、上尾市立上尾中学校30周年記念」昭和52年10月▼引き続きの写真は下のMoreをクリックして頂くとご覧になれます。

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★参考資料
「上尾自治だより]　上尾町、上尾市発行、昭和29年～昭和34年　
★撮影・・・・・・2010年1月