函館旧森屋百貨店模造品(函館レプリカ建築コレクション、その4)

◆函館ウイニングホテル
　・・・・大正から昭和初期に建てられた、函館一のデパート建築を模した複合施設


　函館末広町の電車通り(市電通り)と言えば、戦前の北海道を代表する商業地域だった場所だ。今でこそ数は少なくなったが、 戦前築の銀行建築や事務所建築が幾つかが、その当時を物語るようにちょっと控えめな感じで建っている。
　そういえば函館のライバルとも言える街だった小樽は、当時の商業地域を[北のウォール街]という名称で紹介し、観光スポットの一つとして親しまれている。函館の歴史ある旧市街の商業建築群も、そのようなキャッチフレーズがあれば、新たな町の魅力を発信できたのだろうかなとも思ってしまう筆者である。

　その末広町の商業地域の中でドカンと鎮座していたのが、デパート建築。北洋漁業が全盛だった昭和初期には、決して広くないこの町に二つの大きなデパート店舗が店を構えていた。一つは南部坂下の旧丸井今井百貨店(大正12年築) 、そしてもう一つのデパートと言うのが日和坂下の旧森屋百貨店(大正14年築、昭和5年増築)である。

　ちなみに森屋百貨店は、ベイエリアの赤レンガ倉庫でお馴染みの金森合名会社が、大正末に創業したデパートである。当初は日和坂下周辺に現存する金森洋物店(明治13年築)をはじめ、森屋、魁文堂、時計店、洋服店、回生堂など複数の店舗を出店していた。だが大正13年8月27日早朝に起きた大火災で、洋物店、森屋を除く他の店舗を焼失させてしまった。

　そのため当時、金森合名会社の代表を務めていた三代目・渡辺熊四郎は、それに代わる新店舗の建設を決意。そして火災の翌年にあたる大正14(1925)年12月に、函館ゆかりの請負師・木田保造(1885～1940)施工により、時計台を持つセセッションスタイルの鉄筋コンクリート造3階建ての新店舗と、その向かいにはやはり鉄筋コンクリート製の回生堂を竣工させる。
　そして昭和５(1930)年10月には既存店舗の海側には、やはり木田施工によりカーテンウォールなどのモダンデザインをふんだんに取り入れた、鉄筋コンクリート７階建ての新店舗を増築。こうして森屋は、東京以北最大と言える巨大デパートを完成させたのであった。

　だが森屋百貨店の栄光は長くは続かなかった。昭和11年にやはり地元の大手百貨店(呉服店)だった棒二荻野と合併し、棒二森屋が発足。そしてこの会社は、 新たな店舗を函館駅前に出店(昭和12年12月)させたため、末広町の店舗は不要になり、その後会社事務所、製罐会社の工場として使われたが、老朽化も著しいこともあり、平成13 (2001)年の秋に解体されている。
　その直後からホテル、レストラン、地元ゆかりの国民的歌手である北島三郎の記念館などの複合施設の建設が開始され、平成14 (2002)年12月に、冒頭の写真でご覧いただいたウイニングホール(ホテル)が竣工した。なおこのウイニングホールの外観は、往年の森屋百貨店のデザインを再現したものに仕上げられた。

　この建物の再建に関しては、その当時は賛否両論の意見が飛び交っていた。しかし先代の建物があそこまで朽ち果てた事を考えれば、これが最善の策だったのではないかと解体から10年以上経った今思えてくるのである。但し建物のいわゆる裏側にあたる部分の仕上げが、あまりにも貧相すぎるのが悔やまれる点である。
　あと森屋百貨店、その昔どのような色で外壁が彩られていたか、皆さんご存じだろうか。それは物凄く派手な黄色である。当時の色を現在の建物に復元するのも面白いアイディアと思うが、今の人たちからクレームの声が多く上がるのは必至。現代の我々が考えるより、当時の函館の人々は派手好きで、最新の文化に敏感だった訳である。

◆旧森屋百貨店
　◎設計：木田保造(木田組)、仁科章夫
　◎施工：木田組
　◎竣工：大正14(1925)年12月
　◎増築：昭和5(1930)年10月
　◎解体：平成13(2001)年秋
　◎復元：平成14(2002)年12月
　◎構造：鉄筋コンクリート造3階建て、増築部鉄筋コンクリート造7階建て(竣工時)
　◎所在地：函館市末広町22-11

ウイニングホテルのフロントには、森屋デパート時代に置かれていたモザイクタイルの壁画が展示されている。★竣工当時の森屋百貨店

周辺の建物から察するに、昭和初年から5年までに撮影されたもの。
背後の７階建ての増築棟はまだ建設されていない。

❖図版・・・・筆者所蔵絵葉書コレクションより
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同地点から2009年に撮影。森屋百貨店を模したウイニングホテルの手前に写るのが、金森合名会社が経営する回生堂。こちらの建物も3年ほど前に解体されてしまった。★森屋百貨店竣工前の金森合名会社の各店舗

1枚目の写真は現存する旧洋物店と森屋(森屋は20年ほど前に解体)。そして右手に写る人物が、当時金森の代表を務めていた三代目・渡辺熊四郎。渡辺は明治末から昭和初期の函館経済界のリーダー的な存在だった人物で、明治40年大火後は防火建築の重要さを訴え、自身が檀家総代を務めていた東本願寺元町別院(大正4年築)を、当時は殆ど前例のなかった鉄筋コンクリートで建設させている。また金森洋物店の左側に写る森屋の店舗(大正中期竣工)も、渡辺は鉄筋コンクリート製で建てさせた。
そして写真下が大正13年の火災で焼失した魁文堂、時計店、回生堂。

❖図版・・・・・「函館市制実施記念写真帖」円山貞吉編、大正12年
★大正13年8月27日の火災を伝える地元紙

大正13年8月27日未明、八幡坂下の勝田旅館で起きた火災は、北西方面へと焼失。金森合名会社の大半店舗をはじめ、当時、海漕業で財を成した日下部久太郎が経営する万世ビル、辰野金吾設計の日本銀行函館支店などを焼失させた。但し焼失戸数が、大火と認定される100棟より2棟少なかったため、その後の大火史には紹介されることは殆ど無い。
この大火を機に三代目・渡辺熊四郎は、鉄筋コンクリートらよる森屋新店舗の建設を決断したのである。

❖図版・・・・・「函館毎日新聞」大正13年8月28日
★解体直前と解体中の旧森屋百貨店

こちらは1998年から2001年にかけて筆者が撮影したもの。外壁の一部に竣工当時の黄色の塗装が残っている。
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★撮影・・・・・・1998年6月・8月、1999年4月・8月、2000年5月、2001年3月・11月、2009年6月・10月、2011年4月・6月、2012年7月、2014年6月