埼玉県秩父市のちちぶ銘仙館(昭和モダン建築探訪)

◆ちちぶ銘仙館
　・・・・・昭和5年竣工、モダンデザインが満載の旧県繊維工業試験場


　世間は今週からゴールデンウィーク。今年も毎度の如く、大型連休の恩恵には無縁の筆者だが、先日出掛けてきたのは埼玉県の秩父市であった。秩父と言えば当ブログの主人公である、建築家・関根要太郎(1889～1959)の生まれ故郷である。
　バブル以降は観光事業が低迷している感が強い秩父であったが、このところは秩父を舞台にしたアニメ[あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。]のテレビ放映をはじめ、東京と秩父を結ぶ西武鉄道が、NHK朝の連続小説[花子とアン]の主演女優・吉高由里子さんを、CMのメインキャラクターに起用し、 積極的なキャンペーンを展開した効果もあってか、少しずつながら秩父を訪れる人が増え始めているという。秩父を愛する筆者にとっては、とても嬉しい限りである。

　今回の秩父訪問は、市郊外の羊山公園にある芝桜の丘の見学をし、その帰り関根要太郎の実家・秩父館の主である要太郎の姪・Eさんに会うためだったが、その途中に寄ったのが羊山公園の麓・熊木町に建つ[ちちぶ銘仙館]だった。
　現在の秩父の主産業と言えば武甲山の石灰岩採掘が知られるが、戦前までの秩父経済の屋台骨を支えていたのが織物業であった。特に大正以降における秩父製造の織物は、[秩父銘仙]というブランド名と共に全国に流通。モダンな図柄のその着物地は、昭和初年においては群馬県伊勢崎市と栃木県足利市に次ぐ、出荷量を誇っていた。その秩父銘仙全盛だった昭和5(1930)年に、埼玉県繊維工業試験場秩父支場として建てられたのが、現在ちちぶ銘仙館として使われている建物である。

　この建物を見るのは数年ぶりの事だったが、まず驚かされたのがヴォリューム感溢れるその外観。この時代に建てられた建造物と言うと、正面から斜め30度くらいの少し引いた位置に立つと、撮影ポイントみたいな場所がだいたい出来るのだが、ちちぶ銘仙館に関しては大きな玄関ポーチが邪魔して、そのようなポイントがなかなか無いのである。
　ちなみに玄関の大きなポーチはドイツ表現派ふう、その左右の窓はオーソドックスな洋風、そして建物の基礎部分や建物左側のベランダ部分は、大正中期に来日したアメリカ人建築家フランク・ロイド・ライト(1867～1959)が得意としていた、あの作風を彷彿させるものである。聞くところによると、このちちぶ銘仙館、埼玉県繊維工業試験場を誘致するにあたり、秩父織物組合が資金を出し地元の工務店に建てさせたものだという。そのような経緯を知ると、このモダンデザイン満載の繊維工業試験場の登場が頷けるような気がする。

　また繊維試験場の工場と一体化となった本館の室内は、派手な外観から一転してとてもシックな感じの落ち着いた調度品の数々で纏められている。特に玄関廻りと、かって応接室として使われていた部屋の作りは、一見の価値がある。このセンスの良さは、施主である秩父織物組合の意向が反映された箇所なのかなと思ってしまった筆者であった。
　このちちぶ銘仙館、当時最盛期を迎えつつあった秩父の繊維業者の勢いを感じられる建物である。地元の施工業者が建てた、ごった煮のモダン建築、秩父を訪れた際には是非一度見学して頂きたいものだ・・・・・。

◆ちちぶ銘仙館(旧埼玉県繊維工業試験場秩父支場)
　◎設計：不詳
　◎施工：守屋組
　◎竣工：昭和5(1930)年9月
　◎構造：木造平屋
　◎所在地：埼玉県秩父市熊木町28-1
　　❖国登録有形文化財
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★参考文献
「別冊太陽　銘仙　大正昭和のおしゃれ着物」平凡社刊、2004年
★撮影・・・・2014年4月