江戸東京たてもの園、旧小出收邸(大正モダン邸宅再訪)

◆旧小出收邸
　・・・・・大正14年竣工、新しい試みと伝統が交錯するモダン邸宅


　先週の土曜日久しぶりに訪ねたのが、東京小金井市の江戸東京たてもの園である。
　昨年前半は、この年の春に公開が始まった例の邸宅を撮影するため、月に何度も自宅から自転車を漕いで何度も立ち寄ったのだが、この時は約半年ぶりの訪問。相変わらず古き良き武蔵野の風情を残す小金井公園とその周辺だが、筆者が多摩地域より転居したこともあり、子供の頃から親しんだ馴染み深い風景も、とても新鮮に感じてしまったこの日であった。

　江戸東京たてもの園と言えば、下町の町並みを丸ごと移築したような東ゾーンがよく知られるが、個人的に大好きなのが明治から昭和初期のモダン邸宅を収集・移築した西ゾーン。昭和を代表する建築家・前川國男(1905～1986)の自邸を始め、いつ訪れてもこのゾーンは筆者を飽きさせない。
　その中にある一棟が、冒頭の写真でご覧いただいた旧小出收邸。一種独特な急勾配の屋根が印象的なこの屋敷は、三井銀行、富岡製糸、王子製紙などで勤務した小出收の自邸として大正14年に建てられたものである。旧所在地は東京都文京区の西片。東京大学本郷キャンパスの西側に位置するこの高台の土地は、古くからの高級住宅街として知られる町である。このような高級住宅街にこの邸宅は建っていた。

　しかし何度見ても不思議な尖った屋根の邸宅の造形は、不思議そのもの。設計は大正9年に東京帝国大学を卒業した、 建築家・堀口捨巳(1895～1984)の手による。この堀口、日本の近代建築史を取り扱った書籍には必ず登場する、 [分離派建築会]のメンバーとして知られる人物である。戦前は建築雑誌などに西欧の最新建築を紹介し、戦後は紫綬褒章、芸術院賞などを受賞した昭和を代表する建築家の一人だ。

　分離派建築会に関しては、近代建築史の評論に目を通すと、彼らの登場により日本国内における建築業界の、モダン建築の概念がひっくり返ったという旨の紹介がよくされている。確かに後年における分離派建築会の活躍を考えれば、その評価は紛れもない事実である。
　しかし分離派結成当時に関しては、彼らの目指していた建築の作風は、関根要太郎(1889～1959)などの建築家が自らの作品において既に実践しており、新鮮味に関しては正直欠けていたのではないかとも考える筆者だ。やはり帝国大学卒の建築家というネームバリューと、彼らのパフォーマンスの上手さが後年の評価に繋がったのだろう。

　そのようなへそ曲がりの先入概念は別にしても、この邸宅の出来栄えは不完全燃焼という感は拭えない。以前にもこれは紹介させて頂いたが、シャープな感じの外観を別にして、応接室・書斎・玄関とその他の和室のアンバランスさなど、新しい試みと伝統の融合が成功したとは残念ながら言い難い。

　ちなみにこの邸宅が建てられた当時、ヨーロッパから帰国して間もない時期だったそうで、その時に堀口本人が見た最新の建築文化を自らの作品に実践したいと思ったのだろう。そのような堀口の心の昂ぶりと、日本の住文化の現実が良い意味でも悪い意味でも交錯しているのが、この邸宅の最大の興味深い点であろう。ちなみに堀口はその後、和風建築への造詣を深めていったのである・・・・・。

◆旧小出收邸
　◎設計：堀口捨巳
　◎施工：不詳
　◎竣工：大正14(1925)年
　◎構造：木造2階建て
　◎所在地：東京都小金井市桜町3-7-1(都立小金井公園内)
　◎旧所在地：東京都文京区西片

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応接室。書斎。一階和室。二階和室。************************************************************
★参考文献
「歴史遺産　日本の洋館　第四巻　大正編Ⅱ」　藤森照信氏著、講談社、2003年
「お屋敷散歩」　内田青蔵氏著、河出書房新社、2011年
★撮影・・・・・2013年6月、2014年1月