横浜市開港記念会館(大正モダン建築探訪)

◆横浜市開港記念会館
　　・・・・・・大正6年竣工、ハマのシンボル・赤煉瓦のジャックの塔


　昨年末から続く寒波にやられ風邪でダウンした先日、一日中寝込んでいるのも勿体ないので、夕方から久々にこれまで撮りためた写真を再チェックしてみる事にした。
　近代建築ウオッチングを始めた十数年前は、国内各地域の主要物件を見学してみようと意気込んでいたが、最近は気に入った都市や建築家の作品を限定して見るようになった筆者である。そういう事もあるのだろうか、これまで撮りためた写真はどれも似たような感じになっていた。その中でも多く撮影した建築作品の一つが、横浜の開港記念会館であった。大正6年に横浜開港五十周年を記念して建てられたこの会館は、戦前から「ジャックの塔」という名称で親しまれ、横浜のシンボル的存在の建造物であるという事は、今さら筆者が説明する必要もないだろう。

　横浜の開港記念会館、赤レンガの外壁に花崗岩の白い横帯を巻いたその意匠は、明治建築界の大家・辰野金吾(1854～1919)が得意としたフリークラッシック的な流れを汲んだものだが、この作品最大の売りは百尺(33メートル)以上の高さを誇るシャープな時計塔。これは以前この場所にあった町会所(明治7年築)の時計塔を引き継いだものだったと言われている。この当時の人たちの感覚からしてみると、東京銀座の和光(旧服部時計店)然り、町のシンボル的な建造物には、このような時計塔が不可欠なものだったのかも知れない。

　また赤煉瓦の外観などから、一見すると明治期の洋風建築と言った感じもしてしまう横浜市開港記念会館。しかしセセッション的な縦割りの明快なデザインや、天高く伸びる時計塔もあってか、明治期の建築とは一味も二味も違う、シャープさや明るさが漂っているのが、この建物最大の醍醐味であろう。

　なおこの開港記念会館のデザインは、明治末におこなわれた設計懸賞競技の入選案をもとに、横浜市の技師たちが実施設計をおこない竣工したものである。
　ちなみに懸賞競技の一等に選ばれたのは、当時東京市の技師を務めていた福田重義(1887～1971)の案。筆者も福田については、東京日比谷公園内にある公園旧事務所(明治43年築)の設計者ということ以外何一つ知らなかったが、明治41年東京帝国大学を卒業し、明治末から昭和5年まで東京市に務めていた人物。都市計画の方面でも活躍した人物だそうである。また昨年秋の引っ越しで、以前収集した資料が行方不明になってしまったが、福田の制作した原案ほぼそのままにこの開港記念会館は建設されているので、ジャックの塔の生みの親は福田と言って間違いないだろう。

　またジャックの塔こと開港記念会館の内部は、外見のダイナミックさに比べると物凄く小さく感じられる間取りだ。竣工当時の調度品の殆どは、関東大震災時の火災でその殆どが焼けてしまったそうだが、それから間もなく復旧工事を実施。現在この建物のもう一つの見所とも言える、美しいステンドグラスや、落ち着いた雰囲気の内装がこの時に完成したそうである。
　なお関東大震災後、同建物の屋根は当初のドーム屋根から簡素なものに変更されたが、平成に入り当初の姿を復原。また今から十年ほど前には、大規模な修繕工事を実施し、現在のようなとても美しい姿へと変貌を遂げている。

　横浜へ訪れると必ずと言っていいほど立ち寄りたくなる、横浜市開港記念会館。やはり横浜の街には、この歴史的建造物の存在が不可欠なものだと思わせてくれる作品である。大正の明るさをも感じさせてくれるジャックの塔、いつ見ても飽きることはない、胸ときめく美しい歴史的建造物である・・・・。

◆横浜市開港記念会館
　◎設計：福田重義(原案)、横浜市営繕課(実施設計)
　◎施工：清水組
　◎竣工：大正6(1917)年6月
　◎構造：鉄骨煉瓦造2階建て、地下1階
　◎所在地：横浜市中区本町1-6
　　❖国指定重要文化財


▼引き続きの写真は下のMoreをクリックしていただくとご覧になれます。



************************************************************
★参考文献
「都市の記憶Ⅲ　日本のクラッシックホール」鈴木博之氏著、2007年、白揚社
「図面でみる都市建築の大正」鈴木博之氏、初田亨氏編、1992年、柏書房
「日本のステンドグラス　宇野澤辰雄の世界」田辺千代氏著、2010年、白揚社
「横浜建築家列伝」青木祐介氏著、2009年、横浜都市発展記念館
★撮影・・・・・2009年2月・4月・5月・6月、2011年8月・10月、2013年2月