江戸東京たてもの園、田園調布の家・旧大川邸(大正モダン邸宅探訪)

◆田園調布の家、旧大川邸
　　・・・・・大正14年築、アメリカ直輸入の建材を使ったモダン邸宅


　今日は晴天に誘われ、また東京都小金井市の江戸東京たてもの園を訪ねた。ソメイヨシノの長すぎた開花も終わり、たてもの園のある小金井公園は八重桜やチューリップが満開。少し風が冷たかったが、春満開になった武蔵野の自然を満喫できた充実の一日であった。

　今回のたてもの園訪問の目的は、来週土曜日(4月20日)のオープンが迫っている、 デ・ラランデ邸 (厳密には北尾次郎邸)を見るためだったが、もう一つじっくりと見てみたい作品を撮影するためだった。その邸宅とは、たてもの園入口を入って左手すぐの場所にある田園調布の家である。
　木造平屋という構造で一見すると目立たないし、このお隣には昭和モダン邸宅の最高傑作の一つとして誉れ高い建築家・前川国男(1905~1986)の自邸が建っている事もあり、少し忘れられた存在の作品なのが正直なところである。しかし時間をかけてじっくり見学してみると、そのユニークさに魅了されてしまう作品であった。

　さてこの田園調布の家という名称が付けられた邸宅、その名が示す通り東京東横線・田園調布駅の近くに建てられたもの。田園調布は以前紹介したように、大正7年から渋沢栄一の指導により開発がおこなわれた郊外住宅地である。この邸宅の施主・大川栄は鉄道省の技師を務めていた人物だったそうで、関東大震災後の大正14(1925)年に田園調布へと居を移したのだという。田園調布というと、現在の超高級住宅街を連想しまいがちだが、開発当初は中堅層のサラリーマン向けに分譲された土地だったそうで、このような一見すると質素な邸宅が数多く建てられたようである。

　しかしこの大川邸、外観の質素さとは違いとても斬新な要素が多く盛り込まれている。最初の特徴として挙げられるのが、女中室を除きすべての部屋が床張りの部屋になっているという事である。
　当時の邸宅と言うと、居間や応接間以外は畳敷きの和室を置くというのが主流だったが、施主の大川栄氏は徹底した洋風住宅の建設に拘ったようである。例えば旧大川邸の二軒隣に建つ旧小出邸(大正14年築、設計・堀口捨巳)が、モダンな外観に対し縁側や和室を多く設けているのに対し、こちらは和の要素が殆どないのに驚かせられる。またバーコラを置き床面はかなり低くするなど、当時の日本住宅では珍しい手法が用いられている。

　その他にも、この邸宅の設計を担当した建築家・三井道男のアイディアにより、建材は米国から直輸入。当時としては珍しいツーバイフォー工法で、この邸宅は建てられたという。同時代の洋風邸宅に比べライトな感じがするのは、シンプルなデザインも勿論だが、そのような工法や建材のせいもあるのだろう。

　ちなみに設計者の三井道男は早稲田大学を卒業後、 建築家・岡田信一郎(1883~1932)の事務所に勤務していた人物だったという。三井が勤務していた岡田の建築事務所と言えば、その当時を代表する設計組織だった訳だが、大川邸はそれとは別に施主と語り合い、時間をかけて楽しんで、この邸宅を設計したのではないかとも想像してしまった筆者である。この邸宅は、大正という時代の文化という勢いとは別の時間の贅沢さを感じてしまったのである。自分がここで暮らせたら、さぞかし楽しいだろうなと思ってしまった今回の訪問であった・・・・・。

◆旧大川栄邸(田園調布の家)
　◎設計：三井道男
　◎施工：不詳
　◎竣工：大正14(1925)年
　◎構造：木造平屋
　◎所在地：東京都小金井市桜町3-7-1(都立小金井公園内)
　◎旧所在地：東京都大田区田園調布4


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★参考文献・・・・・・「お屋敷散歩」内田青蔵氏著、2011年、河出書房新社
★撮影・・・・2009年9月、2013年3月・4月