東急電鉄・田園調布駅(大正モダン建築探訪)

◆東京急行・田園調布駅
　・・・・・・東京のお屋敷街、田園調布の大正ロマン溢れる瀟洒な駅舎


　先日は神奈川県川崎市の、 小田急電鉄・向ヶ丘遊園駅舎(昭和2年築)を紹介させていただいた。その撮影後、急に思い立って電車を乗り継ぎ向かったのが、東急電鉄の田園調布駅だった。先月から東武東上線のときわ台駅(昭和10年築) 、 小田急電鉄旧本社(昭和2年築)などを取り上げた事もあり、やはりここも訪れようと考えた筆者であった。

　田園調布と言えば、言わずと知れた日本を代表するお屋敷街。その歴史は大正7年に、日本実業界の重鎮・渋沢栄一(1840～1931)らが創業した、田園都市株式会社がその始まりである。そして大正12年には、目黒と沼部を結ぶ鉄道路線(目黒蒲田電気電鉄、のちの東急電鉄)が開業。それと時を同じくして田園調布の宅地分譲がスタートした。
　また田園調布の特徴は、台地を利用した放射状に配置されたその町並み。筆者が田園調布の駅で下車したのは久しぶりだったのだが、自然と調和したその美しい町並みには思わず息を呑んでしまった。ちなみにこの田園調布の町並み、大正末に設立された社団法人田園調布会という自治会の長年の努力により維持されているとのこと。戦後、東急電鉄が田園という冠文字を付けた鉄道路線を開通させ、山を削り造成したニュータウンとは、その品格はまったく異なっているように思える。

　さてその田園調布のシンボル的存在と言えるのが、冒頭の写真でご覧いただいた田園調布の駅舎である。この駅舎が建設されたのは、この町の宅地分譲が始まって間もなくの大正13年のこと。但し東急東横線、旧目蒲線のホーム地下化工事に伴い、平成2(1990)年に一端解体され、平成12(2000)年に旧駅舎を忠実に再現して建てられたのが現在の駅舎である。
　なお竣工当初の駅舎は、建築家の矢部金太郎が設計を担当。この矢部という人物、当時田園調布の開発を担当していた株式会社多摩川園に在籍していたそうで、その縁でこの駅舎の設計を受け持つことになったようである。

　また矢部作の田園調布の駅舎は、ドイツ民家風のデザインがその特徴としてあげられる。その作風は少し洗練の度合いは足りないが、ドイツ人建築家： デ・ラランデ(1872～1914)や、 関根要太郎(1889～1959)が得意としていたユーゲントシュティルの影響も感じさせる、いかにも大正時代ならではの出来栄えである。

　そして放射状に区画された田園調布の町を歩いてみると、その通りの遥か先には必ずと言っていいほど瀟洒な田園調布の駅舎が目に飛び込んでくる。一度は取り壊されたとは言え、この町のシンボルは間違いなくこの駅舎であるという事を痛感させられた。この町で長年暮らしてきた方々の、復元への多大な尽力が想像できる美しい駅舎であった。このようなものをきちんと再建したからこそ、この町の品格は保たれているのだろうと確信した今回の訪問であった・・・・。

◆東急電鉄・田園調布駅
　◎設計：矢部金太郎
　◎施工：不詳
　◎竣工：大正13(1924)年
　◎解体：平成2(1990)年
　◎再建：平成12(2000)年
　◎構造：木造モルタル塗り2階建て・・・・・竣工時
　◎所在地：東京都大田区田園調布3-25-18
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駅前には田園調布の由来を紹介した看板も。***********************************************************
★参考文献・資料
　　　　　❖ウィキペディア　「田園調布」、「田園調布駅」、「矢部金太郎」
　　　　　❖東急スクェアガーデン・サイト　「田園調布の歴史」
　　　　　❖「スーパーガイド　建築探偵術入門」　東京建築探偵団編、1986年、文春文庫
★撮影・・・・2012年9月