京都三条の中京郵便局(建築家・三橋四郎設計作品再見)

◆京都中京郵便局
　　・・・・・・明治35年竣工、関根要太郎の師・三橋四郎設計の郵便局舎


　京都を訪れると、必ずと言っていいほど寄ってしまうのが、中京区の三条通り。この通りは、明治期から昭和初期に建てられた、レトロな近代建築が数多くある事で知られ、京都観光の穴場スポットとも言える場所である。またそれらの多くは、博物館や多目的なイベントスペース・店舗などに再利用され、この通りの名物となっている。

　その中の一軒が本日紹介する中京郵便局。赤煉瓦が美しいこの郵便局舎は、明治35(1902)年8月に逓信省の技師・吉井茂則と三橋四郎の設計により、京都郵便電信局として建てられたもの。また竣工当初から現在に至る110年間、現役の郵便局舎として使われ続けてきたという由緒ある建物である。そういう事で先日の京都訪問時、この建物を久しぶりに再見、撮影してきた訳である。
　またこの建築作品、吉井と三橋の共作という紹介がされている。しかし吉井はこの建物が建設された期間中、欧米への視察旅行へと出掛けていたので、実務的な設計作業は三橋が執り行ったと考えていいのではないかと思う。

　中京郵便局の設計者である三橋四郎(1867～1915)は、明治26年に東京帝国大学を卒業後、陸軍省技師(明治26年～29年)、逓信省技師(明治31年～36年)、東京市技師長(明治39年～41年)を経て、自らの設計事務所である〔三橋建築事務所〕を開設。大正4年に出張先のロシア・ウラジオストクで急死するまで、数多くの設計作品を残した事で知られる建築家だ。なお三橋は設計活動のほか、日本初の建築仕様書として知られる〔和洋改良大建築学〕の執筆・出版、簡易の防火建築である〔鉄網コンクリート〕を発明するなど、建築界に多大な影響を与えた事でも知られる。
　ちなみに建築家の関根要太郎(1899～1959)は、明治末から大正初めの約3年間三橋の事務所に在籍。ここでの経験を切っ掛けに、本格的な建築家のキャリアをスタートさせている。つまり関根にとって三橋は、師とも言える存在の人物だった訳である。

　また三橋四郎の設計作品は、この中京郵便局を含め国内・国外に現存するのは、山口県下関の旧赤間関郵便局(明治32年築) 、東京江東区の旧商船学校観測台(明治36年築) 、中国遼寧省・瀋陽市の旧奉天日本領事館(大正元年築)など、僅か数作品のみ。
　現存する作品だけでは三橋の作風の全容を把握し難いが、逓信省・東京市時代はルネサンスなど西欧のクラシカルな作風、また個人事務所を開設した明治末以降は、セセッションなど当時のニュームーブメントだったモダンなデザインの作品を数多く残している。

　そしてこの中京郵便局は、教科書に則ったようなルネサンス風のデザイン。その無駄のない端正なプロモーションからは、三橋四郎という建築家としての技量が窺い知れる。同じ三条通りに建つ、赤煉瓦の旧日本銀行京都支店(現・京都文化博物館、設計：辰野金吾、明治39年築)に比べると少し派手さには欠けるが、建築家・三橋四郎の魅力を堪能できる作品ではないかと思う次第である。機会があれば是非足を止めて鑑賞していただきたい、美しい明治建築の一つである・・・・・。

◆中京郵便局(旧京都郵便電信局)　
　　◎設計：吉井茂則、三橋四郎(逓信省)
　　◎施工：安藤組
　　◎竣工：明治35(1902)年8月
　　◎構造：煉瓦造2階建て・・・・・竣工時
　　◎所在地：京都市中京区三条通東洞院東入ル菱屋町30
　　　❖京都市登録有形文化財
　　　❖建設省指定公共建築百選

この中京郵便局、昭和51年から53年にかけて外壁を保存し、建物内を新築するという工事がおこなわれている。近代建築保存の先駆的事例としても有名な作品である。▼引き続きの写真は下のMoreをクリックしていただくとご覧になれます。

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★参考文献・・・・・「日本の建築　明治大正昭和、10・日本のモダニズム」　堀勇良氏著、1981年、三省堂刊
★撮影・・・・・2012年2月、2018年4月