京都市考古資料館、旧西陣織物館(大正モダン建築再訪)

◆旧西陣織物館
　　・・・・・大正3年竣工、日本モダニズム建築の先駆的作品


　先週末筆者は、昨年と一昨年に引き続き京都の近代建築巡りをしてきた。今回の京都訪問は特別これと言った目的は無かったが、気の赴くまま以前見落とした建築作品を何軒か撮影してきたのである。そういう事で本日から当ブログを使い、その中の幾つかの作品を紹介していこうと思う。またもブログタイトルから脱線した内容になってしまうが、もし宜しければ暫くのあいだ京都の建築探訪記にお付き合い頂きたい。

　そういう事で2012年冬の京都建築探訪記で最初に紹介させていただくのが、上京区西陣にある京都市考古資料館。現在は市立の博物館として使われているこの建物、西陣織を広報する西陣織物館として大正3年に建てられたものである。以前も何度か取り上げているが、個人的に大好きな作品という事もあり今回もまた訪れてしまった次第である。

　この旧西陣織物館、日本近代建築史を取り扱った書籍には、必ずと言って登場する記念碑的作品だ。その内容としては、西洋建築特有の装飾を排し、単純明快かつ幾何学的なデザインで纏めたモダニズム建築の先駆的な作品という紹介がよくされている。ここで指すモダニズム建築というのは、1920年代半ばから世界的に大流行した、インターナショナルデザインの事である。
　明治の文明開化以降、西欧の様式建築を学習し実践(模倣)してきた当時の日本建築界を考えると、かなり特異な作品という事は確か。しかし建物から醸し出される全体的な雰囲気は、大正のロマンチシズム風にも筆者の目には映ったのである。

　そして旧西陣織物館の設計を手掛けたのは、本野精吾(1882～1944)という建築家。明治39年帝国大学を卒業し、その2年後に建築家・武田五一の招きで京都工芸学校(現京都工芸繊維大学)の教授に就任。それ以降京都を中心に活躍した人物である。
　なお帝国大学時代の同期生には、 第九十銀行(明治43年築、盛岡市)という珠玉の作品を残した建築家の横浜勉、横河工務所のチーフデザイナーとして活躍する松井貴太郎など、モダンな作風を得意とした建築家がいた。

　また本野も武田と同様、20世紀初頭に西欧各国で勃興したアールヌーヴォーなどのニュームーブメントに触発された事は想像に難しくない。武田がフランスやイギリスの新興建築に魅せられたのに対し、本野の旧西陣織物館はオーストリアの建築家・アドルフ・ロース(Adolf Loos)の諸作品の影響が強く感じられたりする。
　ちなみにロースという建築家、同時期にオーストリア・ウイーンで活躍した〔ウイーン分離派〕の、煌びやかで装飾的な作品を攻撃。自らの作品はそれとは真逆の作風を貫いた人物である。そのようなアウトサイダー的な建築家の作風を感じとり、実践したのが本野設計の旧西陣織物館ではないかと考える筆者である。

　しかし、この時代の感覚からすれば最先端すぎるデザインを受け入れた、京都西陣の織物業者の関係者の英断も大したものだと感心してしまうのが筆者の感想。このような先駆的な作品誕生の裏には、建築家と同様時代の感覚に敏感だったクライアントがいた事も忘れてはいけない事実である・・・・・。

◆旧西陣織物館(現京都市考古資料館)
　　◎設計：本野精吾
　　◎施工：大林組
　　◎竣工：大正3(1914)年
　　◎構造：煉瓦造3階建て・・・・・・・・現在は鉄筋コンクリート補強
　　◎所在地：京都市上京区手出川通大宮東入ル元伊佐町
　　　❖京都市指定有形文化財

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★撮影・・・・・2010年1月、2012年2月
★参考資料・・・・・・ウィキペディア『本野精吾』