横浜日本大通りの旧日本綿花支店(昭和モダン建築探訪)

◆旧日本綿花横浜支店
　・・・・・褐色のスクラッチタイルと玄関の装飾が美しい昭和3年竣工のビル


　気が付けば今年も残すところあと一ヶ月。どう考えても季節は冬だが、先週訪れた横浜日本大通り の銀杏の木々は去りゆく秋を惜しむかのように、黄色い葉をまだまだ落とさずにいた。霜が下りるこんな時期にちょっと変な気もするが、銀杏の木は太陽光の他に街灯などの人工の光にも反応して葉を黄色く染めていくのだそうで、こんな遅い時期に紅葉観賞が楽しめるそうである。

　その中で黄色く色づいた銀杏の葉と絶妙なコントラストを見せていたのが、日本大通りのいちばん陸側、横浜スタジアムがある横浜公園に程近い場所に建つ旧日本綿花横浜支店だった。
　褐色のスクラッチタイル張りの外壁が美しいこの建物、戦後は大蔵省関東財務局の事務所として利用され、また最近では若手芸術家の活動拠点ZAIMとして使われていた事でも記憶に新しい。だが残念ながらこのZAIMも昨年閉館。横浜市によると同建物の存続を明言はしているが、今後の利用方法などについては未定らしい。横浜に訪れるたび「その後」のことが気になってしまう建物である。

　ここ一年近く扉は固く閉ざされた旧日本綿花横浜支店だが、先ほど紹介した褐色の美しいスクラッチタイルの他にも、建物上部のロンバルド帯の装飾や玄関上の花柄の装飾など建築作品としての見どころはとても多い。そして特に注目して頂きたいのが、玄関周りの繊細なデザイン。先に紹介した玄関上の花柄の模様の他、その下には中世ロマネスク建築を彷彿とさせるペガサスの装飾など、まるで絵画のような美しい世界を作り上げている。
　そのような細部の美しさは勿論のこと、建物自体のプロモーションもとてもスマートな出来栄え。細部装飾をはじめ全体的なデザインはロマネスク様式を基調としているが、醸し出すその雰囲気は、19世紀末から20世紀初頭にアメリカで多く建てられた、オフィスビルのようでもある。

　クラッシックながらもシャープな旧日本綿花横浜支店を設計したのは、建築家の渡辺節(1884～1967)。渡辺と言えば大正中期に米国へのオフィスビルの視察旅行を機に、大阪商船神戸支店 、日本興業銀行本店、大阪ビルヂング本店 、大阪ビルヂング東京ビル、日本勧業銀行本店、綿業会館など、アメリカ仕込みの近代的オフィスビルを数多く設計した人物としても知られる。
　またこのころ渡辺の建築事務所には、昭和を代表する建築家・村野藤吾(1891～1984)が在籍しており、質・量ともに充実した作品を幾つも制作していた。そのような事務所が乗りに乗っていた時期に制作されたのが、横浜の褐色タイルのビルディングという事になる訳である。先にあげた渡辺の代表作に比べれば規模は確かに小さいが、遺憾なくそのセンスの良さを出し切ったのが、横浜の渡辺作品と言えるのではないだろうか。

　横浜の街並みにとても似合ったお洒落でレトロなオフィスビル、こちらも足を止めて鑑賞して頂きたい横浜の隠れた名建築の一つである。
◆旧日本綿花横浜支店
　◎設計：渡辺節建築事務所
　◎施工：佐伯組
　◎竣工：昭和3(1928)年2月
　◎構造：鉄筋コンクリート造4階建て、地下1階
　◎所在地：横浜市中区日本大通34
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★参考文献・・・・・・「都市の記憶・横浜の近代建築Ⅰ」　吉田鋼市氏著、1991年、横浜市歴史的資産調査会刊
★撮影・・・・・2009年2月、2011年12月