東京内幸町の仁壽生命本店(建築家・関根要太郎設計作品研究)

◆仁壽生命本店
　　・・・・昭和4年竣工、東京内幸町にあった関根要太郎設計の巨大オフィスビル


　このブログを始めて早や4年、函館や国内に残る関根要太郎設計作品を中心に紹介してきた。しかし関根の函館における業績やその他の現存作品だけでは、関根要太郎という建築家の全てを語りきれないというジレンマも抱えていたというのも事実であった。そういう事で今後は関根の作品考察、また当時の関根の足跡を紹介する〔関根要太郎研究室＠東京〕というコーナーを設置し、それらの紹介を不定期ではあるがおこなっていこうと考えた筆者であった。かなり未完成なレポートだらけになりそうな気もするが、もし宜しければこちらの企画にもお付き合い頂ければ幸いである。

　そういう事で、第1回目に取り上げさせていただくのは、関根の東京における代表作の一つである仁壽生命本店。

　この旧仁壽生命本店は、2年の工期を経て昭和4(1929)年6月に竣工したもので、鉄骨・鉄筋コンクリート6階建ての、当時の東京では大規模な類に入るオフィスビルディングだった。同社は昭和15年に野村生命に吸収合併されたが、その後も野村生命、戦後東京生命と改称された後も長らく本社ビルとして使われ続けられていた。この旧本店ビルが、関根の設計作品だったのである。

　現在その跡地には、内幸町ホールが入居する第一ホテルアネックスが建っているが、それより今年3月の大震災以降、毎日ニュースで嫌というほど報道がされている、東電本社のお隣と書けばおおよその場所を想像して頂けるかも知れない。またこの界隈は関東大震災後、東京市政会館・日比谷公会堂(設計：佐藤功一)、日本勧業銀行本店、大阪ビルディング東京支店(設計：ともに渡辺節)、東拓ビルディング(設計：野村一郎、木子幸三郎)など、当時を代表する一流建築家により豪華絢爛なビルが建てられた一帯だった。

　関根は大正12年竣工の仙台支店を手始めに、同14年の横浜支店、昭和3年の名古屋支店の設計を手掛けている。なお函館に現存する函館支店(大正14年ころ築)も、デザイン的特徴から関根が関与した可能性が高い。
　また関根は大正9年から自らの設計事務所を開設し、それ以前から手掛けていた不動貯金銀行の店舗設計(ほぼ専属契約の状態だった)のほか、このころ不動銀行の支店設計を機に親密になっていた函館、また東京などでも数多くの建築設計を手掛けていたが、この仁壽生命本店が規模的には最大の作品になったのである。

　なおこれまでの関根作品は、大正期から昭和初期に流行していたモダンデザインを作風に取り入れたものが多かったが、仁壽本店に関してはクラシカルな雰囲気が漂う本社らしいデザインが採用されている。仁壽生命も以前の支店建設に際しては、関根建築事務所のモダンな作風を受け入れてきたが、この辺りの変化はとても興味深い。

　当時の記録によると設計者は関根のほか、当時事務所のチーフデザイナー的な存在だった蔵田周忠や小川光三、長年に渡り関根をサポートし続けてきた斎藤巌、そして関根の実弟である山中節治、山中眞三郎などが記されていることを考えると、事務所や兄弟総出のビックプロジェクトだった事が想像できる。また下の欄に、竣工まもなくに撮影された写真も幾つか掲載してみたので、詳しくはそちらを参照して頂きたい。

　もう既にない関根要太郎設計による仁壽生命本店だが、このような東京の一等地に関根はこのような豪華絢爛なオフィスビルディングを制作していたのである。新橋・有楽町間の省線内からも見える、関根設計の巨大オフィスビルディングの登場は、当時の東京っ子たちを驚かさせたに違いないと想像してしまう筆者である・・・・・。
〔冒頭の写真・・・・図版：A〕
◆仁壽生命本店
　◎設計：関根要太郎(関根建築事務所)
　◎顧問：長野宇平治
　◎構造計算：内藤多仲
　◎施工：竹中工務店、清水組(基礎工事を担当)
　◎起工：昭和2(1927)年7月2日
　◎竣工：昭和4(1929)年6月30日
　◎構造：鉄骨鉄筋コンクリート造り6階建て、地下1階
　◎旧所在地：東京都千代田区内幸町1-5
　　〔図版：B〕仁壽生命の外観写真。上の写真は新橋方面の第一ホテル側より、下の写真は現在のJRのガード側から撮影されたもの。装飾を極力抑えたスマートなデザインだったことが分かる。
〔図版：C〕
同建物1階・階段ホール。これまでの関根作品のモダン路線とは違いシックな感じが漂うのもこの作品の特徴。
〔上2点の写真・・・・・図版：D〕1階カウンター。
重役執務室。アメリカのオフィスビルを彷彿させるシャープな作り。
5階大広間と仁壽生命講堂。竣工当初5階・6階には講堂が設置されていた。
〔上4点の写真・・・・・図版：A〕
当時の建築誌に発表された設計図。
なお仁壽生命の設計顧問は、建築家の長野宇平冶(1867～1937)が務めている。関根は関東大震災後に長野の依頼により日本銀行本店の復旧工事を担当した事が縁で、長野に設計顧問を頼んだと想像される。また構造計算は、当時早稲田大学の教授をしていた建築家・内藤多仲が担当している。内藤は当時の大規模オフィスビルの構造計算を多数手掛けた、構造学のエキスパートである。
〔上3枚の設計図・・・・図版：E〕仁壽生命の跡地。現在は第一ホテルの別館が建っている。上3点目・4点目の写真と同じアングルから撮影。なお右奥に見えるのが東京電力本社。
冒頭の写真と同じ角度から撮影。
こちらは有楽町方面から新橋方面を撮影。関根設計のオフィスが建った頃を偲べるのは、JRの煉瓦製ガードくらいしか現在は残っていない。

仁壽生命本店跡から銀座方面を眺める。

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★参考文献・・・・・「仁壽生命本社新築概要」、「日本建築士」昭和4年11月号
★図版・・・・・〔A〕→「仁壽生命本社新築概要」　昭和4年、同社刊
　　　　　　　　〔B〕→仁壽生命発行絵葉書、筆者コレクション
　　　　　　　　〔C〕→「国際建築」　昭和4年7月号
　　　　　　　　〔D〕→「建築世界」　昭和4年10月号
　　　　　　　　〔E〕→「日本建築士」　昭和4年11月号
★撮影・・・・・2011年11月