横浜山手の111番館(大正モダン邸宅探訪)

◆横浜山手111番館
　　・・・・・港の見える丘公園内に建つスパニッシュスタイルの洋館


　横浜山手の古くからの定番スポットと言えば、港の見える丘公園内にある見晴らし台。
　いつもかなりの賑わいを見せているこの場所、戦後の公園整備で作られたものだと思っていたのだが、山手が外国人居留地だった頃からあったという由緒ある場所なのだという。山手が外国人居留地だった頃とは町の風景は大きく変わってしまっているが、 ブラフ擁壁をはじめ、その頃の遺構がごく普通に残っているのが、山手の魅力の一つと言えるだろう。

　その港の見える丘公園の南側に建つのが、今回紹介させていただく山手111番館。赤瓦の寄棟屋根と、藤棚になっている玄関の三連アーチに、建物各所に施されたスパニッシュ風のデザインがとても可愛らしいこの建物、カナダ出身でアメリカの市民権を得ていた人両替商：T・М・ラフィンの次男：J・E・ラフィン(John Edward Laffin、1890～1971)の邸宅として大正15年に建てられたものである。

　この邸宅を建てたかっての主・ラフィンの詳細は不明だが、山手の一等地とも言えるこの場所に居を構えた事などを考えると、かなりの実力を持った実業家の一族だったと想像される。
　またこの山手111番館、横浜市により一般公開が始まったのは、筆者の記憶によると1990年代の後半のころ。それまでは塀越しに、その姿をかろうじて確認できるだけの幻の洋館の一つだったのである。

　さてこの瀟洒な111番館の設計を手掛けたのは、アメリカ人建築家のJ・H・モーガン(1873？～1937)。先月、横浜山手町72番地にあるベーリックホール(昭和5年築)の時にも紹介させていただいたが、大正9年に米フラー社の技師として東京・丸の内ビルディング建設のために来日。また丸ビル竣工後も日本に留まり、引き続き建築家活動を続け国内各地に数多くの設計作品を残している。
　特に関東大震災後における横浜での設計作品は数多く、横浜山手では111番館、ベーリックホールの他に、クライストチャーチ、山手外人墓地の正門などが現存している。関東大震災後の横浜山手の町並みを彩ったのは、紛れもなくこのモーガンだったのである。

　そしてこの山手111番館には、この邸宅の設計者であるモーガンとその妻・石井たまのさん(1898～1997)に関する展示もされている。モーガンとたまのさんは東京で知り合い、プライベートにあっては妻として、仕事にあっては秘書兼通訳としてモーガンをサポートし続けたのだという。あと少しお節介な事も書いてしまうが、モーガンとたまのさんは約30歳ちかくも離れた歳の差カップルだったそうだ。

　また111番館のモーガン解説のコーナーには、建設途中だったモーガン設計の横浜根岸競馬場(昭和4年築)前で撮影された石井たまのさんの写真も展示されている。これは筆者の勝手な想像だが、仕事のため二人で現場を訪れた時に撮影されたものかも知れない。モーガン・たまの夫妻は、この111番館をはじめ山手の洋館建設に際し、二人で足しげくこの土地を訪れたのではないかとも想像してしまった写真であった。
　

　建物の美しさは勿論のこと、それを作り上げた人たちの事をも想像してしまう、さりげないながらも興味深い展示。このような心が込められた演出こそ、町歩きに新たな魅力を与えてくれるのではないかと筆者は思った。山手の丘を下りるのが惜しい気分になってしまった、10月のある晴れた午後であった。

★2014年投稿の中華街ランチ探偵団『酔華』の記事を見て、施主にラフィンについての記述を訂正いたしました。記事での指摘有り難うございます。

◆山手111番館(旧ラフィン邸)
　◎設計：J・H・モーガン(Jay H Morgan)
　◎施工：不詳
　◎竣工：大正15(1926)年
　◎構造：木造2階建て、地下1階
　◎所在地：横浜市中区山手町111
　　❖横浜市指定文化財

館内に展示ある111番館の設計図。
こちらがJ・H・モーガンと妻・石井たまのさんの写真。
▼引き続きの写真は下のMoreをクリックして頂くとご覧になれます。

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★参考文献・・・・「ジェイ・H・モーガン　アメリカと日本を生きた建築家」水沼淑子氏著、関東大学出版会刊､2009年
★撮影・・・・・2009年4月、2011年9月・11月