横浜山手のエリスマン邸(大正モダン邸宅探訪)

◆横浜山手・エリスマン邸
　　・・・・日本モダン建築の巨匠・レーモンド設計による大正15年竣工の洋館


　今年の8月に函館在住のayrton_7さんを横浜に案内して以来、月一回のペースで横浜へ訪れている。自分で言うのも可笑しいが、久しぶりの「マイ横浜ブーム」の到来と言ったところである。近代建築ウオッチングを趣味として十数年、これまで何度となく横浜へ訪れているが、今年の夏以降に私の目に映る横浜は妙に新鮮。特に山手の西洋館を、一軒ずつ時間をかけて再訪している今日この頃な訳である。

　以前にも紹介させて頂いたが横浜山手の西洋館は、現在全7軒が横浜市管轄の財団法人により運営・管理され、その全てが無料で公開されている。またそれらの西洋館を使ったアッホームな企画も度々おこなわれるなど、従来の観光地とは違うスタンスでの運営方針は注目に値するのではないかと思う。
　その中で横浜市がいちばん最初に無料公開を始めたのが、今回取り上げるエリスマン邸。山手127番地に建っていた、大正15年竣工の生糸貿易商：フリッツ・エリスマンの邸宅を現在地に移築し、平成2年から一般公開がおこなわれている。

　2階のドイツ風下見板張りに連続したように作られた水平線な軒やバルコニーの作りと、エメラルドグリーンに塗られた鎧戸、ヴォリュームがありながらシャープに纏まった寄棟型の屋根と、従来の西洋館のスタイルを踏襲しながらもまた別の雰囲気を醸し出すエリスマン邸。その設計は大正末から昭和中期にかけて日本のモダン建築界を彩った、建築家のアントニン・レーモンド(Antonin Raymond、1888～1976)による。

　チェコ生まれのレーモンドは、20代前半の頃にアメリカに渡り、その後フランク・ロイド・ライトの建築事務所・タリアセンに入所する。またライト設計による東京・帝国ホテルの建設スタッフとして、大正8年にライトと共に来日。だがレーモンドは間もなくライトの下を離れ、東京に米国建築合資会社を開設し、日本で引き続き建築家活動をおこなう事になったのである。

　また建築史を研究される諸先生方の評論によると、ライトの下を離れた大正末から昭和初期にかけてのレーモンドの作風というのは、師・ライトの影響を脱却するため試行錯誤をしていた期間だったのだという。確かにエリスマン邸を観察してみても、先に紹介した水平線を強調した外観デザイン、また屋内階段室や暖炉周りの作りなど何処となくライトを連想させる作りである。しかし全体的なデザインは、ライトの作風とはかなり違った味を醸し出しているように思えるのである。

　どんな分野であれ、試行錯誤している期間の作品というのは駄作が多かったりするのだが、このエリスマン邸に関しては非常にスマート。この辺りからでも建築家・レーモンドの技量が伺えるのではないかと思う。以前はそんな事は微塵も感じなかったが、レーモンドという建築家の凄さをこのエリスマン邸から感じたのであった。

◆エリスマン邸
　◎設計：アントニン・レーモンド(米国建築合資会社)
　◎施工：清水組
　◎竣工：大正15(1926)年
　◎移築：平成2(1990)年
　◎構造：木造2階建て、地下1階
　◎所在地：横浜市中区元町1丁目・元町公園内(旧所在地は山手町127-1)
　　❖横浜市認定歴史的建造物

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階段のデザインは、師であるフランク・ロイド・ライト風のデザイン。*******************************************************
★参考文献・・・・・｢都市の記憶　横浜の近代建築Ⅱ｣　横浜市歴史的資産調査会発行、1996年
　　　　　　　　　　「日本の美術　№447、外国人建築家の系譜」堀勇良氏著、至文堂刊、2003年
★撮影・・・・・・2009年3月・4月、2011年10月