旧函館西警察署模造品(函館レプリカ建築コレクション、その1)

◆函館市臨海研究所
　・・・・大正15年竣工、巴港一の偉観と賞賛された旧函館水上警察署の復原作品


　ここ数年函館の街並みに次々と登場しているのが、歴史的建造物のレプリカ作品。
　これは老朽化などの理由により、以前あった建造物を維持する事が不可能となったため、新たにそれに模したものを建て直すという手法である。現在函館の他にも東京・横浜などでも同様の手法で、歴史的建造物を再現するというプロジェクトがたびたびおこなわれている。また筆者が以前訪れた中国の大連や青島などでも、歴史的建造物のレプリカが何軒か存在していたので、今や世界的にも歴史的建造物の姿を後世に伝える手法なのだろう。

　しかし函館を歩くと、今回取り上げる旧函館西警察署をはじめ、レプリカの建造物や中途半端な歴史的建造物の保存がやたらと目に付く。もし筆者がはじめて函館を訪れる身だったら、それほどの違和感を持たないのかも知れないが、長年風雪に耐えてきた解体前の風格にみちた建物の姿や、建設に至るまでの歴史を知ってしまうと、素直に喜べないのが正直なところである。
　また先ほど既存建物の解体理由について、「老朽化などの理由により、以前あった建造物を維持する事が不可能になったため」という事を書かせて貰った。これは皆さんもご存じだと思うが、昭和13年竣工の弥生小学校前校舎解体問題でも表沙汰になったように、函館市に関しては解体を前提に歴史的建造物の景観保全の話を進めている感が強い。このような経過を知ってしまうと、やはり函館の歴史的建造物の復原プロジェクトに嫌悪感を抱かずにはいられない。

　そして今回紹介する函館市臨海研究所は、大正15(1926)年10月に函館水上警察署の庁舎として建てられた前建物を平成18(2006)年に解体し、平成19(2007)年に復原・竣工したものである。
　なお3年前に当ブログでも紹介したように、解体前の建物は函館商人のリーダー的存在であった小熊幸一郎(1866～1952)と、日魯漁業の創業者・堤清六(1880～1936)の寄付により建設資金が賄われている。その姿は現在も継承されたが、大正期に大流行していたセセッションというモダンスタイルで彩られ、当時の新聞記事では『巴港一の偉観』と絶賛された。

　建物裏側のあまりにも無機質すぎる作りに目をつぶれば、建物表面の忠実な再現や旧部材の再利用など、一見すれば函館市臨海研究所はレプリカ建築としてはある程度の評価が出来ると思う。しかしこの復原建造物、姿形は前建物を継承しているものの、前建物にあった肝心な部分を置き去りにしてしまっている。それは鉄筋コンクリートブロックという構造工法だ。

　この鉄筋コンクリートブロック工法は、大正10年大火後函館で活躍した建築家・中村鎮(1890～1933)により、函館でもおこなわれるようになったローコストの施工手段で、もし旧西警察署を解体しないで保存・維持していたなら、建築学的にもかなり貴重な作品になったに違いない。もしかしたら既存建物の壁面を、後方から補強するなどの保存も出来たのかも知れないが、あくまでも解体・新築というのが函館市の大筋だったようなので、そのような選択肢は最初から無かったのかも知れない。

　意匠をはじめ容姿の再現はとても素晴らしい函館市臨海研究所。しかしプラスチックみたいな妙な軽さは、元町界隈で盛んにおこなわれている石畳の歩道整備と同様にしっくりと来ないのが正直なところ。
　函館市臨海研究所も年月が経てば、先代の建物と同様の風格が出てくるのだろうか、とても気になるところである・・・・・。

◆函館水上警察署～函館西警察署(現函館市臨海研究所)
　◎設計：埴原欽次郎
　◎施工：直営？
　◎竣工：大正15(1926)年10月
　◎解体：平成18(2006)年
　◎復原：平成19(2007)年3月
　◎構造：鉄筋コンクリートブロック造2階建て(竣工時)
　◎所在地：函館市大町13-1
　　❖函館市景観形成指定建造物

建物を囲むコンクリート製の柵や、基礎部分は前建物からのもの。

木製の階段は先代の建物から引き継がれたもの。二階には中村式鉄筋コンクリートブロックに関する展示も。竣工当時の前建物の写真も。
建物後方。もう少し気の利いた設計は出来なかったのだろうか・・・・・・。解体前の旧西庁舎。1998年撮影。
********************************************************
★撮影・・・・1998年6月、2009年6月、2011年6月