函館元町の旧吉田家住宅(函館擬洋館コレクション、その37)

◆旧吉田家住宅
　　・・・・・元町港が丘教会隣に建つ昭和10年竣工の擬洋風住宅


　今回紹介するこの建物は函館の老舗レストランとして知られる五島軒本店前に建つ、昭和10年竣工の擬洋風民家。
　ここ周辺は五島軒のほか、現在は元町港が丘教会として使われている日本基督教団旧相生教会(昭和9年築)をはじめ、なかなか味のある歴史的建造物が軒を連ねる一帯でもある。その中でも鮮やかなグリーンの塗装でその存在感をアピールしているのが、旧吉田家住宅である。

　この住宅の存在は以前から気になっていたが、この住宅の前を走る道の通行量が多い事や、スリップ防止用のために道路に刻まれた溝を自動車が通過する度に響き渡る独特の轟音にいつも集中力をそがれ、これまでさほど撮影をしてなかった筆者であった。そういう事に今さら気付き、今年の4月と6月に纏めて撮影してきたのが今回ご覧いただく写真という訳である。

　さてこの旧吉田家住宅は、先にも紹介したように昭和10年の竣工したものである。これは何度となく紹介してきたように、この一帯は昭和9年の大火で焼失した地域なので、その後建てられたのがこの住宅という事になる。
　なお以前にも触れさせていただいたが、この界隈は明治40(1907)年、大正10(1921)年、昭和9(1934)年の三度の大火でどれも焼け出されてしまった不運な場所でもある。そのようなアンラッキーな場所に建てられたのが、木造下見板張りの旧吉田家住宅だった。家を建てる予算上の問題か、度重なる大火で外壁にモルタルを塗るなどの簡易な防火対策などは無力なものと開き直ったのか、この住宅の施主は函館伝統の擬洋風民家のスタイルで建てる事を決意した訳である。

　昭和9年の函館大火後に建てられた木造民家と言うと、戦時色が濃くなりつつある国内情勢や函館経済の伸び悩みなどが影響しているのか、どちらかというとシンプルな作りのものが多い。だがこの旧吉田家住宅を観察すると、軒下に付けられた持ち送りの装飾や1階の和風格子窓の作りなど、かなり凝った作りになっている。
　またこの住宅も、昭和以降の函館擬洋風民家で多く用いられている出窓を採用しているが、それ以外の箇所だけ見るとまるで明治期に建てられた擬洋風民家のような佇まい。やはり当時の施主は木造民家が火災で無力なのを十も承知で、この豪華絢爛な擬洋風民家を建てたのだろうと思えてきてしまうのである。そのような函館の当時の人たちの拘りを感じられる作品が、この旧吉田家住宅と言えるのではないだろうか・・・・・。

◆旧吉田家住宅(現T家住宅)
　◎設計：不詳
　◎施工：藤田権次郎
　◎竣工：昭和10(1935)年
　◎構造：木造2階建て
　◎所在地：函館市元町29-15
　　❖函館市歴史的景観賞受賞(1989年)

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★撮影・・・・・2011年4月・6月