京都府立図書館(明治モダン建築探訪)

◆京都府立図書館
　　・・・・明治42年竣工、ヨーロッパ帰りの建築家が手掛けたモダン建築の魁


　今回取り上げる京都府立図書館は、平安神宮の参道の脇に建つ明治42年竣工の洋館。私が最後に平安神宮界隈を訪ねたのは、もう十数年くらい前の事になるが、オレンジ色が眩しい神宮の鳥居脇に建つ小さい洋館は妙に印象に残ったものだ。
　またその頃は近代建築に興味を抱いていなかった時期だったので、その洋館がどのようなものかなど調べすらもしなかった。しかしそれから数年後、平安神宮の鳥居の脇に建つ小さな洋館が、近代建築史に残る名作という事を知り、1月の京都旅行で今更ながら京都府立図書館を訪ねた訳である。

　この京都府立図書館は、関西ではお馴染みの建築家・武田五一(1872～1938)の設計によるもの。武田といえば東京帝国大学卒業後、同大学の助教授に就任し、明治建築界の大家・辰野金吾の跡を継ぐ人物と目されていたという。
　しかし明治34年から二年間の西欧留学を機に、東大教授の道を断念。また帰国後は京都に活動の拠点を置き、京都高等工芸学校や京都帝国大学の教授に就任し後進の指導のほか、関西方面に数多くの設計作品を手掛ける事になった。その初期作がこの京都府立図書館という事になる。

　なお先程、武田五一は東大教授就任の道を断念したと紹介させていただいたが、その理由の一つが明治34年の西欧留学時にフランスやイギリスなどで流行し始めていたアールヌーヴォー建築との出会いにあったという。このとき武田は恩師・辰野金吾の再三の帰国命令に従わず、アールヌーヴォー建築巡りに時間を費やしていたという。そしてその体験をもとに造られたのが、この京都府立図書館だったという評価が現在されている。

　全体的にはルネサンスなどクラシカルな建築様式をベースにしているが、シンプルな作りの外観デザインなどはセセッションの影響が感じられる。そして金色に塗られたテラコッタの色遣いや鉄扉の細かい装飾などは、現地でアールヌーヴォーを体験してきた武田だからこそ出来た細かい演出ではないかと思う。大正時代になってからの華やかなモダン建築に比べると、多少重たい感じもするが、モダン建築のさきがけに相応しい力作と言えるだろう。

　さて十数年振りに見た京都府立図書館、以前見た時とは何だか周辺環境が変わっている。それは1995年に起きた阪神淡路大震災で建物が損傷したなどの理由により、明治42年築の図書館は建物の外壁だけが残され、その後建築された新館とドッキングするような形で保存されたからである。

　なお以前は図書館の前庭には、色々な木が植えられ明治末竣工の図書館の建物となかなかマッチしていた。しかし現在建物前はコンクリートとガラス張りの駐輪場になっており、更に建物下を覘くと地下閲覧室の採光のための空間が大きく取られているなど、旧図書館の素晴らしさを台無しにするような設計がやたらと目についた。日本近代建築史の一頁を飾る名作だけに、もう少し気のきいた演出は出来なかったのだろうかとも思ってしまったのが、正直な感想である・・・・・。

◆京都府立図書館
　◎設計：武田五一
　◎施工：直営
　◎竣工：明治42(1909)年
　◎構造：煉瓦造2階建て・・・・・竣工時
　◎所在地：京都市左京区岡崎成勝寺町9

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★参考文献・・・・・『日本の美術　№448・日本人建築家の軌跡』 田中禎彦氏著、2003年、至文堂
　　　　　　　　　　『アールデコの建築』 藤森照信氏著、1993年、ちくま新書
　　　　　　　　　　『日本の近代建築　下』 藤森照信氏著、1993年、岩波新書
★撮影・・・・・2011年1月