東京日本橋の三菱倉庫ビル(昭和モダン建築探訪)

◆日本橋の三菱倉庫ビル
　　・・・・・震災復興の象徴・昭和通り沿いに建つ昭和5年竣工のモダンビル


　この三菱倉庫ビルは前回紹介した野村證券本社の東側、江戸橋際に建つ昭和5年竣工のビルディング。建物上に取り付けられた塔屋は巨大客船のようでもあり、とても優雅な雰囲気を漂わす建築作品だ。

　三菱倉庫の日本橋(江戸橋)における歴史はかなり古く、明治13年に三菱汽船の倉庫が建てられ、明治20年に三菱の倉庫部門の会社〔東京倉庫〕として独立。また大正7年に三菱倉庫に改称し、現在に至っている。ちなみに江戸橋と言えば、江戸期からの物流の大動脈であった日本橋川が流れ日本橋の商業地帯とほど近い、当時としてはかなり商業価値の高い場所だった訳である。

　また大正12年9月関東大震災で、それまで使われていた事務所と倉庫は倒壊。新たな事務所兼倉庫として建てられることになったのが、冒頭の写真でご覧いただいた三菱倉庫ビルだった。なお関東大震災後の復興事業の一環でこの周辺は区画整理がおこなわれ、新築される倉庫の前には東京の南北を縦貫する〔昭和通り〕が開通。この場所は水運のみならず、陸運においても利便性に優れた土地となったのである。

　なお冒頭でもこのビルの塔屋は巨大客船のようだと紹介したが、そのようなスケールの大きなデザインは、水運の大動脈・日本橋川と、陸運の大動脈・昭和通りが交差する立地を踏まえた三菱倉庫の技師たちが、意図的に施したものだったのではないかと筆者は想像する。また細部の意匠には、大正末から日本国内で全盛を極めていた〔表現派〕というモダンデザインが用いられ、いくら眺めても見飽きない建築作品となっている。
　そしてこの建物で忘れていけない見所の一つが、日本橋川に残るガラス張りの部分。これは河川からの荷物を陸揚げする時に使われていた施設だったそうで、当時としては最先端の技術が用いられたのではないかと想像される。

　そのようなこれまでの倉庫建築にはない、モダンさと当時の最新技術を兼ね備えた三菱倉庫ビル。これは既にご存じの方も多いと思うが、今年初めにこのビルの所有者である三菱倉庫がこの場所に18階建ての賃貸ビルを建設することを発表した。
　ちなみに同社のホームページによると、昭和5年築の建物の約7割を保存するとのこと。このビルの倉庫部分を現状のまま使用したことを考えると、賃貸ビル建設は会社の利益を見れば最善の選択をしたということになる。しかも歴史的建造物の外観を保存するという点でも、ある程度の評価はできる。しかし倉庫とオフィスを兼用した近代産業遺産という点から見ると、三菱倉庫ビルの価値が失われてしまうような気がするのも正直なところ。都会でこのような歴史的建造物を残すには、ますます厳しい時代になっていくのだろうか・・・・・。

◆三菱倉庫本社(旧江戸橋倉庫)　
　◎設計：三菱倉庫建築課
　◎施工：竹中工務店
　◎竣工：昭和5(1930)年12月
　◎構造：鉄骨鉄筋コンクリート造6階建て、地下1階
　◎所在地：東京都中央区日本橋1-19
　　❖東京都選定歴史的建造物

この建物の顔とも言える屋上の塔屋。
建物外観デザインは、この当時流行した表現派の影響が色濃く見られる。
以前にも紹介したが、三菱倉庫の隣には建築家・関根要太郎(1889～1959)設計の函館の地場銀行・百十三銀行の東京支店が建っていた。
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★参考資料・・・・・三菱倉庫ホームページ
　　　　　　　　　　｢古地図・現代図で歩く　明治大正東京散歩｣2003年、人文社
★撮影・・・・・2009年3月、2010年9月・12月