函館・百十三銀行本店(建築家・関根要太郎作品研究、その8)

◆旧百十三銀行本店
　　・・・・・大正15年に竣工したモダン銀行店舗のその後


　先々月の下旬から始めさせていただいた、建築家・関根要太郎(1889～1959)の設計作品：百十三銀行本店(函館市末広町、大正15年築)の研究レポートも今回で最終回。そういう事で最終回にあたる今回は、関根設計による百十三銀行本店が竣工してからの事柄を簡単ながら紹介していきたいと思う。

　これまでのレポートでも紹介してきたように、現在SEC電算センタービルとして使われている旧百十三銀行本店は、大正期に函館に拠点を置く地場銀行であった、百十三・函館の両銀行の合併を機に新築されたもの。
　また大正後期の函館における金融業界は、第一次世界大戦後の不況の影響をそれ以降も引きずっていたようだ。しかし大正13年に末広町や東浜界隈で起きた大火災の影響もあってか、百十三銀行の新店舗は耐火素材である鉄筋コンクリートにて建設され、大正13年の大火災の焼失地域でただ一軒無事だった、東京資本の第一銀行函館支店(現函館市文学館、設計：西村好時・八木憲一、大正10年築)と規模的にも劣らない豪華な新店舗が、関根要太郎の設計により竣工している。

　そして設計者の関根にとっても、これまで世話になっていた函館に対する思い入れもあったのだろうか、デザイン的にもそれまでの関根作品とは一味違ったモダンデザインが多く用いられた作品となった。竣工間もなくにこの百十三銀行本店は、〔建築世界〕という建築雑誌に写真・設計図を含め8頁という大々的な発表された事などでも、設計者である関根にとっても相当な自信作だったことが伺える。
　そのような施主と設計者のかなり強い思い入れにより登場したのが、この百十三銀行本店だったのではないかと筆者は想像してしまうのである。

　モダンな銀行店舗を新築させた百十三銀行だったが、年号が昭和と改められた昭和2(1927)年に入り、更に預金額が減少するという非常事態が発生。それに危機感を抱いた百十三銀行関係者は、小樽に本店を置く北海道銀行に合併を打診。その結果、昭和3年2月には合併の話が纏まり、同年4月1日には百十三銀行は北海道銀行に吸収合併された。
　そして函館末広町に新築されたばかりの百十三銀行本店は、北海道銀行の函館支店へと降格。関根設計によるモダンな銀行店舗が本店として機能したのは、僅か一年半という短い期間のみであった。何とも哀しい話である。

　また戦局の激しくなった昭和19年には、北海道銀行は北海道拓殖銀行に合併され、同銀行の末広町支店として昭和60年代初頭まで使われていたが、昭和62年から現在この建物の所有者・SECのオフィスとして再生利用されている。函館の地場銀行だったこの建物が、小樽の銀行と吸収合併されてから約60年後、地元企業のSECが再び使い始めたというのも一種の運命めいたものをも感じてしまう。

　この旧百十三銀行本店、観光都市・函館の歴史的建造物の中にあっては、あまり知られていない物件ではある。しかしこの当時、東京をはじめとする本州の中央都市とは違うスタンスで経済活動をおこなっていた函館商人と、その商人たちが認めた新進気鋭の建築家・関根要太郎が作った意欲作ということを頭に入れて頂ければ、また違った輝きを感じとって貰えるのではないかと思うのだが・・・・。

★百十三銀行本店の竣工記念絵葉書

外観・建物内の写真の他、建設データーを記した工事概要が同封されている。

※図版・・・・・函館市立図書館蔵
★百十三銀行本店が北海道銀行支店に降格されたことを伝える新聞記事
※図版・・・・・「函館新聞」昭和3年4月2日
★百十三銀行が合併される直前の新聞広告

この当時末広町の本店のほか、函館では地蔵町、弁天町、若松町、函館以外では東京、小樽、旭川に支店を置いていた。

※図版・・・・・｢函館新聞｣昭和3年3月5日
★北海道銀行本店

小樽市色内に建つ旧北海道銀行の本店(明治45年築)。設計は建築家・長野宇平治(1867～1937)が担当。
長野は関根要太郎の師である建築家・三橋四郎(1867～1915)と帝国大学の同級生だった。
❖今回をもちまして百十三銀行本店のレポートを終了させていただきます。皆さま、有難うございました。
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★参考文献・・・・・・「函館市史　通説編第三巻」函館市史編纂委員会、1997年
★撮影・・・・・1998年6月、2000年8月、2009年6月・10月、2010年4月