函館・百十三銀行本店(建築家・関根要太郎作品研究、その5)

◆旧百十三銀行本店
　　・・・・・函館地場銀行の東京支店と系列銀行の店舗について


　今回の建築家・関根要太郎(1889～1959)設計作品：百十三銀行本店(函館市、大正15年築)レポートの第五回目。これまでは関根設計の本店が建てられる経緯や、外観デザインや平面計画をはじめとする設計面など、設計を依頼した銀行側もそれを引き受けた関根も、相当に思い入れが強い作品だったという事を紹介してきた。
　そして今回の研究レポートは、そのころ関根設計により建てられた百十三銀行の東京支店と、関根設計の可能性も考えられる系列銀行の本店について話を進めていきたい。

　まず最初は、関根要太郎率いる〔関根建築事務所〕が設計を担当した百十三銀行の東京支店について。
　百十三銀行の東京支店は、大正12年の関東大震災で焼失したそれまでの店舗に代わるものとして建てられた、鉄筋コンクリート造4階建ての店舗である。施工は関根と同じく函館と縁の深い、請負師・木田保造(1885～1940)率いる木田組が本店に続き施工を担当している。なお木田組の工事事業一覧を見ると、百十三銀行東京支店の欄に大正15年9月の日付が記されているので、その時期に着工されたようだ。また建物の規模を考えると、その翌年(昭和2年)に竣工した可能性が高い。

　この東京支店は既に取り壊されているが、日本橋の一本下流に架かる江戸橋のそば東京都中央区日本橋1-20に建っていた。地番だけを紹介するとまったくイメージが掴めないかも知れないのでもう少し詳しく解説すると、昭和通り沿いに建つ日本橋郵便局の裏手、東京の昭和初期モダン建築の一つとして名高い三菱倉庫(昭和5年)の脇にあった。
　ちなみにこの西側の兜川(現在は埋め立てられ首都高速が走る)を渡ると、東京証券取引所をはじめとする兜町の証券街があるという、銀行業にしてみれば絶好の場所に百十三銀行の東京支店はあった訳だ。

　また竣工当時の写真を見ると建物の外観デザインは、敷地の制限もあってか函館の本店に比べると少し地味な感じ。但し建物両脇に本店にも使われている半円形の小窓を置くなど、本店との共通性を持たせたデザインになっている。

　なお下に竣工当時の写真を掲載したので、詳しくはそちらを参照していただきたいが、本店のみならず関根が支店の設計も担当したとは、関根と函館商人の深い結びつきを感じさせるエピソードと言えるのではないだろうか。

★百十三銀行東京支店

昭和4年に雑誌『国際建築』に発表された写真より。設計は関根建築事務所、施工は木田保造(木田組)が担当した。またこの前年に百十三銀行は小樽に本店を置く北海道銀行に吸収合併されたため、当時の雑誌には北海道銀行の東京支店として紹介されている。
なお流一さんのブログ・ぼくの近代建築コレクションには、昭和60年代前半に撮影された旧百十三銀行東京支店の貴重な写真が紹介されているので、是非こちらもご覧いただきたい。

※図版・・・・「国際建築」昭和4年12月号
百十三銀行東京支店の跡地。
首都高速の向こう側には東京証券取引所がある。
百十三銀行東京支店の跡地から見た三菱倉庫。
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◆函館貯蓄銀行本店について

　先の百十三銀行東京支店に引き続き紹介させていただくのが、百十三銀行本店の辻向いに建つ旧函館貯蓄銀行本店。現在はSECの末広ビルとして使われている、鉄筋コンクリート造2階建てのビルである。

　この函館貯蓄銀行本店については2008年に一度取り上げたが、頭取や取締役を石館友作や2代目・相馬哲平などの百十三銀行の幹部が務める、いわば百十三銀行の系列会社ともいえる銀行だった。
　この函館貯蓄銀行も、大正13年7月にこの近隣で起きた大火災を教訓にしたようで、大正15年3月から木田保造率いる〔木田組〕の施工により、鉄筋コンクリート造の新店舗建設を開始。そして百十三銀行本店落成より約二月後の、大正15年12月に竣工に至っている。また現在外観はかなり変更されているが、竣工当初は軒周りに歯形の装飾、2階窓はアーチ型になっているなど、どちらかというとルネサンス風のクラシカルなデザインだった。

　そしてここからは個人的な推測を述べることにしたい。
　先に触れたように函館貯蓄銀行本店の施工は木田保造が担当している。また函館貯蓄銀行と建設と時を同じくして工事がおこなわれた百十三銀行の本店と東京支店が、関根要太郎の設計・木田保造の施工によりおこなわれた事を考えると、百十三銀行の系列会社だった函館貯蓄銀行も、やはり関根要太郎の建築事務所の設計により建てられたとは考えられないだろうか。

　なお竣工当初の外観デザインは大きく異なるが、一部が中二階になっている一階部分の構成などは百十三銀行本店に相通じる作りというのも興味深い点だ。

　また当時の関根建築事務所はモダンデザインの建築作品ばかり設計していた訳でもなく、時おり村林ビル(東京都江東区、昭和3年築)のような、クラシカルな作風の建造物も設計している。そのような事を踏まえても、関根は百十三銀行本店と対比を付けるために、函館貯蓄銀行をわざとクラシカルなデザインにしたのではないかとも推測してしまう筆者である。以前紹介した仁壽生命函館支店と共に、こちらも決定的な資料を見つけられない関根設計の可能性が考えられる作品の一つだ。

★竣工当初の函館貯蓄銀行本店

※図版・・・・・「函館毎日新聞」大正15年12月17日
★竣工当初の百十三銀行本店

※図版・・・・・「函館毎日新聞」大正15年10月28日
玄関脇のオーダーは竣工当時のデザインの名残り。
通用口入口のデザインはセセッション風。
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★参考文献・・・・・・「木田保造」木田組編さん、昭和16年
★撮影・・・・・2009年6月、2010年4月・9月