神戸舞子ホテル、旧日下部久太郎邸(大正モダン邸宅探訪)

◆旧日下部久太郎邸
　・・・・・函館とも縁の深い海運商・日下部久太郎が建てた大正モダンな邸宅


　前2回は兵庫県姫路市に残る歴史的建造物を紹介させていただいたが、その道すがら途中下車したのが神戸市西部にあるJRの舞子駅。
　明石海峡大橋の発着点として知られるこの町だが、駅の北側の坂道を上るとご覧のようなとても立派な洋館が建っている。現在は山陽電鉄系列の舞子ホテルとして使われているが、もとは海運商の日下部久太郎(1871～1953)の邸宅および接待所として大正期の中ごろに建てられたもの。大正半ばならではの優雅さを漂わす、モダンな邸宅だ。

　この邸宅のかっての主・日下部久太郎というと、明治末に函館で主に海運・海漕業務をおこなう日下部合名会社を設立し、それから間もなく神戸に進出。そして大正3年の第一次世界勃発を機にその業務を拡大した日下部は、当時の海運景気とその経営が見事にはまり、その数年後には日本を代表する海運王となった人物である。

　そしてその直後に建てられたのがこの神戸邸という事になる訳だが、日下部はこの他に仕事のもう一つの拠点である函館と生まれ故郷の岐阜に邸宅を新築している。
　また今回の訪問では玄関付近しか撮影できなかったが、この神戸邸は冒頭の写真でご覧頂いた洋館のほかに、背後にはその倍以上の広さがある日本館が併設されているという。当時の海運景気を偲ばせる豪華な屋敷である。

　また日下部久太郎の神戸邸は、〔ユーゲントシュティル〕という20世紀初頭にドイツなどで流行したアールヌーヴォー調のスタイルで纏められている。
　あと日下部はこのユーゲントシュティルがよほど好きだったのか、この頃竣工した岐阜の事務所や、函館の東浜桟橋脇にあった〔万世ビル〕という事務所兼ホテルも同様のスタイルで建てさせている。函館の万世ビルは大正13年の火災で内部を焼失し、その直後大規模改修がおこなわれシンプルな外観に変更。また昭和30年代頃にそのビルも取り壊されており、当時の限られた写真でしか偲ぶことができないが、岐阜の事務所の方は今も現存している。なお岐阜の事務所については、ブログ〔建築ノスタルジア〕の管理人・esさんよりお借りした写真を今回は掲載したので、詳しくはこちらを参照していただきたい。

　また今回紹介した日下部久太郎の神戸邸、岐阜の事務所、函館の万世ビル共に諸説はあるが、設計者についてはいまだに判明していないようだ。海運景気絶頂の大正半ば、日下部はどのような建築家と出会い、これらの建物の設計を依頼したのだろうかと色々と想像が膨らんでしまう・・・・・。
◆旧日下部久太郎邸(現舞子ホテル)
　◎設計：不詳
　◎竣工：不詳
　◎竣工：大正4(1915)年～大正8(1919)年ころ
　◎構造：煉瓦造2階建て、一部地下
　◎所在地：兵庫県神戸市垂水区舞子台2-5-41

建物のデザインはドイツ風アールヌーヴォー〔ユーゲントシュティル〕で纏められているが、この時期同様のスタイルの作品を発表していた建築家・関根要太郎の諸作品と比較するとかなりどっしりとした雰囲気。
日下部も舞子の邸宅に戻るたび、この海を見ていたのだろう・・・・・・。
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★旧日下部合名会社岐阜事務所

こちらが日下部久太郎の旧岐阜事務所。神戸の屋敷と同様ユーゲントシュティルのデザインで纏められているが、こちらの方が派手な感じ。
なおこの建物は大正2年築と紹介されているが、日下部の商売の成功やデザインの特徴を考えると、もっと後に竣工した可能性も考えられる。

★写真提供・・・・・プログ「建築ノスタルジア」
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★参考文献・・・・・「日本の洋館、大正編Ⅰ」　藤森照信氏著、2002年、講談社刊
　　　　　　　　　　「函館市史通説編・第3巻」1997年、函館市発行
★撮影・・・・・2010年7月
★special thanks to・・・・・・mr.es_february