函館宝来町の三上ふとん店(函館擬洋館コレクション、その25)

◆宝来町の三上ふとん店
　・・・・宝来町電車通り沿いに建つ昭和初期築のレトロ洋館


　函館の街並みの代名詞の一つと言えるのが、市内を走る路面電車。
　その中でも個人的に好きな箇所というのが、青柳町電停の周辺の風景である。十字街電停から左折した軌道は宝来町の広い道路の中央を走り抜け、宝来町の電停を過ぎると今度は右折しながら急な勾配をモーターの轟音を響かせ、坂の頂上にあたる青柳町電停へと上っていく。鉄道フアンならずとも魅せられる、坂の町・函館ならではの光景だ。

　そして今回紹介させていただく三上ふとん店は、路面電車が宝来町方面から青柳町電停へと上りはじめる坂道の左手に建つ木造洋館。
　1階が店舗、2階が住居として使われているこの洋館、なかなか堂々とした姿をしている。なお店舗の左側には〔創業大正十年　手づくりふとんの老舗〕なるのれんが付けられ、この地域の歴史と共にこのふとん店が歩んできたことを伺わせる。もし筆者が函館に住んでいたなら、少し値段が高くても市東部の大型ショッピングセンターではなく、こちらで寝具を購入するだろう。

　さて大正10年創業の老舗ふとん店、現在見られるこの店舗の正確な竣工年は分からないが、昭和9年3月の大火でこの周辺は全焼した地域なので、恐らくそれ以降に建てられたものと考えていいだろう。
　1階部分はアルミサッシに取り換えられているが、2階の外壁はドイツ式の下見板が張られ、階の中央には胴蛇腹と呼ばれる帯状なものが付けられた、函館の典型的な擬洋風民家の造り。だがこれまで紹介していきた弁天・大町・船見町・末広町などの明治から大正期竣工の擬洋風民家との違いは、2階が出窓になっているということ。恐らく防寒対策などのために開発された手法なのだろうが、昭和以降に建てられた木造民家はこの方式が主流になっている。

　また昭和9年の大火以降に函館で建てられた木造洋館の殆どは、それ以前のものとは違い軒下の持ち送りやその周りの装飾を排したものが多いのだが、この三上ふとん店はシンプルながら軒下のお洒落が施されているのも見どころの一つだ。
　それとこのふとん店のような2階の出窓が左右非対称の造りになっている木造民家が、結構の数あることを今回の函館訪問で気づいた。恐らく間取りの関係上で偶然このような造りになったのかも知れないが、函館の木造民家の進化過程を見るとこれも見逃せない箇所である。そういう事で函館の擬洋風民家探索の新たなテーマが、また一つ生まれた訳である・・・・。

◆三上ふとん店
　◎設計：不詳
　◎施工：不詳
　◎竣工：昭和9(1934)年以降
　◎構造：木造2階建て
　◎所在地：函館市宝来町2-5

建物正面から。左右非対称の窓が印象的。
なおこの建物の右側から地番が青柳町へと変わる。 シンプルながら軒下には装飾も施されている。
こちらは2001年の秋に撮影したもの。この頃は同タイプの擬洋風民家が左に建っていたが、これより間もなく取り壊されている。
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★撮影・・・・・2001年9月、2010年4月