深川東京モダン館(昭和モダン建築探訪)

◆旧東京市深川食堂
　・・・・門前仲町に登場した昭和7年竣工の旧市営食堂を再生した観光施設


　本日紹介するのは、東京江東区の門前仲町にある深川東京モダン館。
　江東区の監修により昨年の秋オープンしたばかりのこの施設は、昭和7年竣工の旧東京市営の深川食堂を再生活用させたものである。筆者はこの施設がオープンしたころ、この近所に住まわれる建築史家のM先生よりお話を伺い、是非とも一度は訪れようと思っていた。

　そのように思いながら腰の重い筆者、いつものように訪問する機会を逸していたのだが、今年の1月ここで東京の復興小学校に関する講演会がおこなわれる事を知り、はじめてこの深川東京モダン館を訪ねた訳である。
　ちなみに門前仲町のすぐそばの佐賀町には、建築家・関根要太郎(1889～1959)の設計作品である村林ビル(現佐賀町スタジオ、昭和3年築)が建っていることもあり、年に何度か関根作品を見に地下鉄東西線の門前仲町駅を下車しているのだが、こちらの旧東京市深川食堂はその存在すら知らなかった。門前仲町の駅から歩くこと数分、最近新築された高層マンションの隣にこの深川東京モダン館はあった。文字通り昭和初期のモダニズム建築の香り漂う、とても洒落た建物である。

　さてこの東京市の深川食堂、関東大震災後の復興事業の一環として昭和7年に開業したものだという。いわゆる一般大衆向けの施設である。
　また建物外観は近年改修されたこともあってか、あまり古さを感じないと思われた方もおられるかも知れない。しかし玄関脇の案内板に掲示された竣工時の写真(下図掲載)を見てみると、南面の6箇所の丸窓に、その左隣りの吹き抜けの階段の採光するめために大きく取られた縦長の窓、そして道路西側2階に大胆に取られたカーテンウォールなど、その当時の姿のまま修繕されていることがお分かり頂けるのではないかと思う。

　旧東京市深川食堂のデザインは、当時国内で全盛を極めていた〔インターナショナルデザイン〕の影響を受けたもの。なお当時の東京市の施設では飯田橋の津久戸小学校や港区の高輪台小学校などに同様のデザインが採用されている。

　このような大衆向けの施設にも最先端のモダンデザインを取り入れたというのは、当時の技師や関係者たちが一般庶民の生活向上への願いが込められていたのだろうか。洗練されているがどことなく愛嬌のあるこの建物の容姿に、当時この施設の造った関係者たちの温かい心を感じてしまったりもした。

　東京深川の町歩きが楽しくなるような、古くて新しい施設の誕生。そのモダンな佇まいは、周辺に建てられた新築マンションに決して負けていない・・・・。

◆旧東京市深川食堂(現深川東京モダン館)
　◎設計：東京市
　◎施工：藍城淺次郎
　◎竣工：昭和7(1932)年3月
　◎構造：鉄筋コンクリート造2階建て
　◎所在地：東京都江東区門前仲町1-19-15
　　❖国登録有形文化財

玄関前にあるこの建物の由来を紹介する看板。
竣工時の姿のまま再生されたことがよく分かる。
建物内は1階が観光案内所、2階がカフェとイベントスペースとして使われている。
昭和20年の空襲でこの建物は被災したため、建物内で竣工時の面影を残す箇所は少ないというが、モザイクタイルが貼られた南側階段はその当時からのものだという。
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★撮影・・・・・2010年1月・3月・4月