東京都中央区立旧京華小学校(昭和モダン建築探訪)

◆東京八丁堀の旧京華小学校
　　・・・・昭和4年竣工の旧小学校舎を再生した中央区の複合施設


　この旧京華小学校は銀座や日本橋から徒歩で15分ほどの八丁堀に建つ、昭和4年竣工の鉄筋コンクリート製の小学校舎。
　京華小学校の建つ八丁堀は、大正12年の関東大震災後に整備された鍛冶橋通りと新大橋通りという二つの幹線道路が交差し、東京メトロ日比谷線やJR京葉線の駅がある交通の要所と言った感じの町である。

　昭和20年代から40年代初頭に八丁堀から程近い人形町で暮らしていた知人の話によると、その当時の八丁堀は一般の住居や商店が多く建つ下町風情溢れる町だったという。
　しかし幹線道路が交差する立地や、日比谷線の開通が東京の地下鉄では比較的早い昭和30年代後半だったこともあってか、現在では中規模なビルが立ち並ぶ典型的な東京都心のオフィス街へと変貌を遂げている。そして京華小学校は、八丁堀のこのような町の変化に伴い徐々に児童数が減少。平成2(1990)年はこの近くにある中央区立の鉄砲洲小学校(現区立中央小学校、昭和4年竣工)と統合され、学校施設は旧鉄砲洲小へと移転した。

　またそれから数年の間は旧京華小学校の校舎は空き家の状態が続いていたそうだが、平成13(2001)年に中央区の〔京華スクエア〕としてリニューアルオープン。現在は早稲田大学のエクステンションセンターのほか、シルバー人材センターなどが入居する地域のコミニュテイーセンターとして第二の活路を見出している。なお中央区内では小伝馬町の旧十恩小学校(昭和3年築)が閉校後、このような区の施設として再生活用されている。

　昭和4年に竣工した京華小学校のデザインは、日本橋の常盤小学校(昭和4年築)など中央区内に現存する戦前築の小学校舎は曲線や円形窓を多用しているのに比べ、デザイン的にはとても平坦なのが特徴としてあげられる。
　筆者は竣工から現在に至るまでの改修でこのような姿になったものだと思っていたが、竣工まもなくに撮影された写真を見ると当時からこのようなデザインだったのである。設計を担当した東京市技師の好みが恐らく反映されたのだろうか。平面計画を含め竣工当時の旧京華小学校は、かなり個性的な小学校舎だったに違いない。

　なお今回は昨年から今年に撮影した写真の他に、京華小学校が空き家になっていた頃に撮影した写真を掲載させていただいた。今から10年近く前は朽ち果てていた京華小学校だったが、中央区は歴史ある校舎を現在のような華麗な姿へと蘇えらせた訳である。
　現在中央区は明石小学校をはじめ同時期に竣工した数校の校舎解体を予定しているが、この時のような志しでこれらの校舎を保存することは出来ないのだろうか・・・・。

◆旧中央区立京華小学校(現京華スクエア)
　◎設計：東京市
　◎施工：銭高組
　◎竣工：昭和4(1929)年4月20日
　◎構造：鉄筋コンクリート造3階建て、一部地下
　◎所在地：東京都中央区八丁堀3-17

鍛冶橋通りの平屋部分は竣工時、体育館と手工室が置かれていた。
表通りはビルだらけのこの界隈だが、京華小の裏手に回ると一般の民家が幾つか建っていた。
★竣工まもなくの京華小学校　〔図版・1〕

鍛冶橋通り沿いに建つ平屋の校舎屋上から撮影したもの。
★閉校まもなくの京華小学校

1997年12月、建築ウオッチャー初心者だった頃に撮影したもの。
外観は朽ち果てていたが、構造がしっかりしていた事や区の予算を軽減させる理由などから、中央区は既存校舎を解体するのではなく再生させる英断を下したという。
*********************************************************
★図版・1・・・・・｢東京市教育施設復興図集｣　東京市役所発行、昭和7年3月号
★撮影・・・・1997年12月、2009年4月、2010年3月