函館・石塚商店(建築家・関根要太郎設計作品研究)その2

◆函館・石塚商店建設
　　・・・・建築家・関根要太郎、山中節治設計作品研究(その2)


　本日も前項に引き続き、建築家：関根要太郎(1889～1959)・山中節治(1895～1952)兄弟設計による石塚商店(函館市末広町、大正11年ころ築)のご紹介。今回はその外観デザインについて簡単ながら話を進めていきたい。

　このプログで何度となく触れてきたように、当時関根・山中兄弟は〔ユーゲントシュティル〕という、20世紀初頭にドイツ・オーストリアのウイーンなどで流行していたモダンデザインのエッセンスを自らの設計作品に取り入れ、それを武器に活躍していた建築家だった。例えば函館に現存する函館海産商同業組合事務所(海同会館、大正9年築)、旧亀井喜一郎邸(大正10年築)の丸みを持ちつつヴォリューム溢れる作風などは、2人のユーゲントシュティルの好みがよくあらわれた作品といえる。

　しかし、石塚商店はこの2つの竣工物に比べると少々作風が違うのでは・・・・?、と思われた方もいらっしゃるかも知れない。現存する作品だけでは説明がしにくいこともあり、下に関根・山中兄弟の設計作品を何点か掲載してみたので、詳しくはそちらを参照していただきたい。

　さて石塚商店は鉄筋コンクリート製ということもあり、海同会館や旧亀井邸のような丸みを帯びたデザインは施されていないが、ある共通のデザインが用いられている。
　それは石塚商店の玄関両脇を彩る茶色のタイル張りの部分。実は関根・山中兄弟のこの頃の設計作品を見ると、このタイル張りのワンポイントが多く使われており、2人の得意としていたデザインだったと思われる。

　ちなみに石塚商店が建設された頃、関根・山中兄弟は自らの設計事務所を開設し、本業の不動貯金銀行の店舗営繕のほか、東京や大正10年大火後の函館の復興建築を数多く手掛け多忙を極めていた時期。これって手抜きのデザインなのでは・・・・・？、とケチも付けたくもなる。
　しかし石塚商店をよく観察してみると、玄関両脇の渦巻き模様や、平坦な屋根のヴォリューム不足を隠すための軒瓦など、設計者の関根・山中兄弟の工夫が色々と感じられる。石塚商店は両側に建物が建てられたために、限られたファザード部分をいかに効果的に見せるかということに、設計者の2人は重点を置いたのではないかと思えてきてしまう。2人は函館で数々の傑作を残してきたが、この建物のその一つに入る、なかなかの出来栄えである。

　今から80数年前、関根要太郎・山中節治という2人の若き青年建築家と、施主の青年海産商・2代目石塚弥太郎(1883～1966)の情熱が今に伝わってくるような作品。この先も東浜の地で、海産業が盛んだった在りし日の函館を語り続けて欲しいものだ・・・・・。

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★石塚商店・デザインのルーツを探る

◆ヨーゼフ・ホフマン設計：Beer-Hoffmann　Residence(1906年築)　〔❖図版-d〕

20世紀初頭オーストリア・ウイーンを中心に、ユーゲントシュティルを作風で活躍した建築家：ヨーゼフ・ホフマン(Josef　Hoffman、1870～1956)の作品。
関根・山中は西欧の訪問経験はなく、西欧から取り寄せた建築誌を参考に自らの作風を確立していったと考えられる。ホフマンは関根・山中にとって影響を与えた建築家の一人と言っていいだろう。
◆松本歯科病院(東京・京橋、大正11年ころ築)・・・・現存せず　〔❖図版-e〕

雑誌『建築世界』に山中節治名義で発表された竣工作品。屋根瓦のデザインなどに函館の石塚商店に酷似。なおこの雑誌の翌月号にて石塚商店の竣工写真が発表されている。
旧所在地は京橋区弥左衛門町、現在の銀座4丁目・数寄屋橋交差点の近くにあったようだ。

◆不動貯金銀行札幌支店(大正9年築)・・・・・現存せず　〔❖図版-f〕

◆不動貯金銀行明石支店(大正10年ころ築)・・・・現存せず　〔❖図版-f〕

◆不動貯金銀行佐賀支店(大正10年築)・・・・現存せず　〔❖図版-f〕

上の3点の建物は、関根要太郎・山中節治設計による不動貯金銀行の店舗。
直線状に貼られたタイルや、筋模様の浮き彫りなど石塚商店と共通のデザインが用いられている。なお当時の関根要太郎設計作品については、関根設計作品・その2をご参照ください。
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❖この建物に関しては今が発表に相応しくない時期とも思いましたが、建築家：関根要太郎・山中節治の貴重な設計作品、また函館に大正期に建てられた海産商の貴重な施設を多くの方に知っていただきたく、今回取り上げさせていただきました。
なお同建物は2011年7月に解体されました。
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★図版・・・・・〔❖d〕　「Josef Hoffmann」　Taschen
　　　　　　　　〔❖e〕　「建築世界」大正11年7月号、筆者所蔵
　　　　　　　　〔❖f 〕　「不動貯金銀行創立40周年記念写真帖」昭和15年、不動貯金銀行刊
★撮影・・・・・2004年6月、2009年3月・6月、2011年6月