函館・石塚商店(建築家・関根要太郎設計作品研究)その1

◆石塚・イチヤマ商店建設
　　・・・・・建築家：関根要太郎・山中節治設計作品研究(その1)


　今回から2回に分けて、建築家・関根要太郎(1889～1959)、山中節治(1895～1952)兄弟の設計作品、函館市末広町の石塚・イチヤマ商店(大正11年築)について紹介していきたい。

　この石塚商店は関根・山中兄弟が、大正10(1921)年4月の函館大火後に、元町の旧亀井喜一郎邸 、船見町の爾見淳太郎邸(現存せず) 、旧曙町の泉泰三邸(現存せず)とともに設計を手掛けたものの一つ。また外観・内装とも大正モダンなデザインで彩られた事務所は、この当時全盛を極めていた函館の海産景気を偲ばせる貴重な建物といえるだろう。
　
　石塚(イチヤマ)商店は、明治期に神奈川県足柄出身の初代・石塚弥太郎(1855～1918)が函館で創業した海産商。なお初代・石塚は函館有数の地主の一人で、こののち関根・山中兄弟が事務所設計を手掛けることになった函館海産商同業組合の代表を務めるなど、函館屈指の海産商だった人物である。また明治半ばより、海産業の中心だった東浜(現在の末広町)に商店を構えている。
　石塚商店の創業者である初代・石塚弥太郎は、大正7(1918)年に逝去。それよりまもなく養子の2代目・石塚弥太郎(1883～1966)が家督を相続した。少し余談になるが2代目・石塚は、昭和10年代に自らが所有していた谷地頭の土地での温泉掘削に成功し、それを市に寄贈したことでも知られる人物である。

　そして2代目が石塚商店を家督を相続した3年後の大正10年4月に、函館で大火が発生。このときの大火で石塚商店の事務所は焼失してしまい、その直後に関根要太郎・山中節治の設計により建設されたのが、冒頭の写真でご覧いただいた石塚商店の事務所だった訳である。

　恐らく関根・山中は石塚商店向いの函館海産商同業組合事務所(大正9年築)の設計を手掛けたこともあり、大火発生以前から関根と2代目・石塚には面識があったのではないかとも考えられる。

　石塚商店の竣工時期については、雑誌『建築世界』大正11年8月号に竣工まもない同商店の写真が発表されているので、大正11年のはじめ、もしくは前年暮れに竣工したと考えてよいだろう。また大正10年の大火後に函館では耐火目的のため鉄筋コンクリート建築の施工が積極的に奨励されていたが、この石塚商店も鉄筋コンクリートで建てられた。外観は関根・山中兄弟が当時得意としていたセセッション・ユーゲントシュティルというモダンデザインで彩られている。

　ちなみにこの建物が竣工した当時、設計者である関根・山中兄弟は、32歳と27歳、そして施主の2代目・石塚も30代後半という若さだった。若き青年建築家と若き海産商が建てたのが頷ける、とても溌剌としたデザインとも言えるのではないだろうか・・・・・。
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★この記事は2009年5月に投稿したものですが、同建物が2011年7月上旬に解体されたこともあり、最新のページに置かせて頂きました。ご了承ください◆石塚(イチヤマ)商店
　　◎設計：関根要太郎、山中節治(関根建築事務所)
　　◎施工：不詳
　　◎竣工：大正11(1922)年
　　◎構造：鉄筋コンクリート造り2階建て
　　◎所在地：函館市末広町16
　　　★2011年7月解体
★大正11年に発表された石塚商店の外観写真　〔❖図版-a〕

当時、関根・山中兄弟が設計竣工作品を多く発表していた雑誌『建築世界』に発表されたもの。
現在は玄関ポーチが設置されているものの、竣工時の姿をほぼ保っていることがよく分かる。

★竣工まもない石塚商店　〔❖図版-b〕

こちらは大正12年に発表された函館市制記念写真帖より。

★大正１０年大火後の石塚商店周辺　〔❖図版-c〕

写真左手に写るのが、函館海産商同業組合事務所。写真左手に先代の石塚商店があったようだが、火災で焼失したと考えられる。

★石塚商店のステンドグラス

こちらと下の写真は、5年前に石塚商店の方にお願いして撮影させていただもの。
いかにも大正時代らしいセセッション風な図柄が特徴。また玄関扉や床のタイルなどにも竣工当時からと思われる、装飾デザインが多く見受けられた。

★同商店の階段手摺

こちらも大正時代らしいアールヌーヴォー調のデザイン。こちらは解体寸前の2011年6月25日に撮影したもの。2階の窓際には普段のように書類が山高く積まれ、この10日後にこの建物が解体される事など想像だに出来なかった・・・・・。
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★参考資料・・・・「はこだて人物伝」石塚弥太郎
　　　　　　　　　　「風雪の碑」　田村謙吉著、昭和51年
　　　　　　　　　　「函館大火調査報告」　西村好時著、建築雑誌・大正10年12月号
★図版・・・・・〔❖a〕　『建築世界』大正10年12月号
　　　　　　 　　〔❖b〕　『函館市制実施記念写真帖』円山貞吉編、大正12年
　　　　　　　 　〔❖c〕　『建築雑誌』大正10年12月号
★撮影・・・・・2004年6月、2009年3月・6月、2011年6月