函館市弥生町の煉瓦塀(函館坂のある町の風景)

◆函館市弥生町の煉瓦塀
　　・・・・幸坂沿いにある風情溢れる防火目的の煉瓦塀


　函館の旧市街地である西部地区。この地域には函館山の中腹から海に向けて、坂が十数本設けられており、それぞれの坂ごとに様々な表情を見せてくれる。そして函館にある数々の坂中でも、一二を争う長さなのが、西部地区の北側にある幸坂だ。坂上に旧ロシア領事館が建っていることでお馴染みの坂である。
　
　この幸坂、海側の西浜の煉瓦倉庫から始まり、坂上の山上大神宮まで様々な街の表情が見ることができる、いかにも函館らしい美しい坂だが、坂を半分近く上った場所にあるのが冒頭の写真でご覧いただいた煉瓦塀だ。
　木造の住宅と煉瓦塀の対比が美しい風景は、以前には函館ゆかりの作家・辻仁成氏のエッセー〔函館物語〕で紹介され、また函館を舞台にした映画〔海猫〕に主演した女優・伊東美咲さんの写真集、またドラマロケなどで何度か使われている。素朴ながらも生命力すら感じるこの風景に魅せられているという方も、多くいらっしゃるのではないかと思う。

　この煉瓦塀、幸坂側から見ると、平屋建ての木造長屋の奥に２階建ての母屋、山側には煉瓦造りの蔵が建っている。さてその裏はどうなっているの？、と思われた方もいらっしゃるかも知れない。実はこの煉瓦塀の向こう側もなかなか興味深いことになっているのだ。
　幸坂から直接は行けないのだが、この下を横断する道をまずは入っていただきたい。そうすると、前回紹介した擬洋風の木造民家・I家住宅とT材木店の間が僅かながら道になっており、そこを入ると幸坂側より幾分高い煉瓦塀が見える。これが幸坂から見える煉瓦塀の反対側にあたる訳だ。

　詳しい様子は下に掲載した写真をご覧いただくとして、こちらの煉瓦塀が幸坂方面より幾分か高くなっているのに気付いて頂けるだろう。実はこの煉瓦塀の高さに、当時の函館の人達の工夫が隠されているのだ。これまで函館では大火が幾度となく起きていたということは紹介してきたが、こちらの煉瓦塀が高く造られているのは、大火が起きる時は津軽海峡からの強風に煽られ火災が広がるというパターンが多く、それを見越して津軽海峡側にあたる南よりの塀を高く設けたのだろう。なおこの付近は、明治４０(1907)年の大火で焼けた地域なので、恐らくそれから間もなくに作られたものだと考えられる。

　函館の街づくりの歴史は度重なり起きる火災に対し、その被害を最小限にくい止めるかという工夫の上に成り立っている。今回取り上げた幸町の煉瓦塀をはじめ、先人たちの工夫は函館の至る所に今も生き続けている訳だ。

◆幸坂の煉瓦塀
　◎竣工：明治４０(1907)年以降？
　◎所在地：函館市弥生町8

※この場所は一般の方が住まわれている住居ということもあり、見学に際しては節度を守った行動をお願いいたします。
奥に見える蔵は津軽海峡側に設けられたもの。
防火壁の役割の兼ねるため、この場所に蔵が置かれたと考えられる。

幸坂より撮影したもの。１～２枚目に紹介した写真の裏手にあたる。
こちらは坂下より撮影。煉瓦下の石垣も頑丈な造り。--------------------------------------------------------------------------
★煉瓦塀の反対側
奥に見えるのが先に紹介した母屋。

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★撮影・・・・・2009年3月