東京日本橋の白木屋百貨店(木田保造設計・施工作品)

◆東京日本橋の白木屋呉服店　　
　　・・・・関東大震災で姿を消した木田保造設計による華麗なデパート建築


　ここ数日に渡り、大正から昭和初期にかけて東京・函館・札幌などで活躍した請負師・木田保造(1885～1940)が、東京都内で施工を手掛けた現存作品を紹介させていただいた。
　この数ヶ月間、木田の作品を訪ね歩いたが、木田が亡くなってから７０年ちかく経過していることもあり、現存する作品は非常に少ないものの、生前の木田が活動の拠点としていたもう一つの街・函館と同様、数多くの街の主要な建築を手掛けていることに気付かされ、生前の木田の活躍ぶりを再確認してしまったものだ。

　そして今回紹介させていただくのは、東京日本橋の白木屋百貨店。
　日本橋の白木屋というと、１０年程前まで東急百貨店として使われていた店舗を思い浮かべた方も多くいらっしゃるかも知れないが、木田が建設に携わったのは、明治４４(1911)年に竣工したその先代にあたる店舗である。また大正６(1917)年、同８(1919)年木田の設計施工により洋風の外観に増改築されたが、大正１２(1923)年９月に起きた関東大震災により、建物は倒壊・炎上してしまっている。
　この白木屋百貨店、竣工より１０年近くしかもたなかった建物だが、木田保造のキャリアを考えると、様々な意味で重要な作品なのである。

　冒頭でご覧いただいたのは白木屋の大正８年増築後の姿だが、もとは明治４４年１０月に建築家・伊藤吉太郎(１０世・伊藤平左衛門)の設計により竣工したもので、当初は和洋折衷の外観だった(・・・・詳しくは３枚下の図版を参照してください)。

　またこの頃、大蔵省建築部の臨時職員の職を辞した木田保造は、東京赤坂の溜池に土木請負業〔木田組〕を開業し、この白木屋の建設に参加。そしてこれが縁となり、木田は伊藤吉太郎が設計を手掛け間もなく造営が開始されることになっていた、東本願寺函館別院の建設監督のため函館に渡ることになった。

　東本願寺函館別院については、これまで幾度となく紹介してきたように、完成までに3年以上の歳月を要した、日本初の鉄筋コンクリート製寺院。また同寺院建設を機に、木田は当時最先端だった鉄筋コンクリート技術を修得することになり、コンクリート建築の請負を武器に活躍することになった。またこれ以降、函館をはじめ北海道において、数多くの建築施工を手掛けることになった訳である。

　そして東本願寺函館別院の造営を終え、帰京した木田が手掛けたのが白木屋の増改築工事だった。大正6年に4階への増改築・洋風ルネサンス様式への外観変更など、木田の設計・施工によりこの工事は実施されている。また増築後の白木屋の姿は、『建築画報』という雑誌に紹介されるなど、当時30歳を過ぎたばかりの木田保造の名を建築業界に知らしめる出世作になったようだ。

　また木田は、大正8年より欧米への約1年に渡る建築視察旅行へと赴き、これ以降函館の丸井今井・森屋、東京の松屋、札幌の丸井今井・三越、小樽の大国、新潟の万代、川崎の小宮、群馬県前橋市の麻屋など、数多くのデパート建築の施工および設計を手掛けることになった。この白木屋、デパート建築施工のエキスパート・木田保造の原点となった作品ともいえなくもない。

　白木屋の塔屋を置いたルネサンス風のデザインは、大正モダンそのもの。この当時の日本橋においては屈指のハイカラな百貨店だったことだろう。

〔冒頭の図版→■A〕
◆白木屋呉服店(百貨店)
　◎設計：木田保造
　◎施工：木田保造(木田組)
　◎竣工：大正６(1917)年10月・・・・ ４階の増築、及び外観変更

　◎増築：大正8(1919)年9月・・・・・ ５階増築

　◎構造：木造、外壁石材及び白煉瓦張り５階建て
　◎旧所在地：東京都中央区日本橋1-4
　　〔図版→■B‐1〕
★白木屋の玄関部分
　〔図版→■B‐2〕
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★白木屋百貨店改築前の姿◆明治44年竣工の白木屋百貨店

こちらは明治４４(1911)年１０月に竣工した改築前の白木屋百貨店。
外観は和洋折衷型で、日本で初めて電動エレベーターが設置された商店建築だった。
設計は１０世・伊藤平左衛門(伊藤吉太郎)で、施工に木田保造も参加。そして木田は白木屋竣工の翌年、伊藤設計による東本願寺函館別院の造営のため、函館に渡ることになった。

◆明治44年竣工時の白木屋内のエレベーター
　　〔図版→■C・・・２点とも〕
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★白木屋跡地の現在
◆コレド日本橋

木田設計よる白木屋が関東大震災で倒壊・焼失ののち、昭和2年に石本喜久治設計よる新店舗が竣工。その後、増改築を経て戦後は東急百貨店の百貨店として使われていたが平成11年に閉店し、その店舗も解体。現在跡地にはコレド日本橋が建てらている。
大正・昭和・平成を通じて、常に時代の最先端を走るモダン建築が建てられているというのも興味深い。

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★図版・・・・・〔■Ａ〕、筆者所蔵絵葉書

　　　　　　　　〔■Ｂ‐1〕、「建築画報」大正7年5月号
　　　　　　　　〔■Ｂ‐2〕、「　　〃 　　」大正7年9月号
　　　　　　　　〔■Ｃ〕、「白木屋三百年史」昭和32年、白木屋発行
★参考文献・・・・・「白木屋三百年史」昭和32年、白木屋発行
　　　　　　　　　　　「百貨店の誕生」初田亨氏著、平成11年、ちくま学芸文庫発行
　　　　　　　　　　　「木田保造」、木田組編纂、昭和16年、木田組発行