東京・上智大学1号館(木田保造施工作品探訪)

◆上智大学1号館
　　・・・・・北海道に縁深い建築家と請負師が建てた、美しい大学校舎


　先日から始めさせていただいた、建築請負師・木田保造(1885～1940)の東京都内の施工作品探訪。前2回は本郷・神田の木田作品を取り上げたが、本日はそこから西約2～3キロの四谷に現存する木田作品を紹介してみたい。

　その建物とは、上智大学1号館。昭和７(1932)年に、スイス人建築家のマックス・ヒンデル(Max Hinder、1887～1963)設計、そして木田保造(木田組)施工により竣工したものである。
　設計者のヒンデルは大正末より昭和初期にかけて、ミッション系の学校、教会、外国領事館の設計などを数多く手掛けた事で知られる建築家。その中でも東京での代表作が、上智大学の１号館校舎だという。設計者については、たびたび紹介されることはあるが、この建物の施工を手掛けた木田保造の名は取りあげられることもなく、木田フアンの私としては歯痒い気分だったが、今回は木田の施工作品であることを知っていただきたく、この校舎を紹介することにした。

　４階～３階の黄土色・２階の赤茶色のスクラッチタイル、そして１階の花崗岩という３色に分かれた外壁の対比が美しい上智大学最古の校舎。
　JR四谷駅から外濠沿いに続く遊歩道を赤坂見附方面へ歩を進めると、現代的な校舎に間に挟まれるように上智大学の１号館はあるが、近年建てられた近隣の校舎が脇役のように見えるほど、この校舎には品がある。中世の修道院にも思える佇まいだが、先に紹介した３色刷りの外壁や窓の配置などに昭和初期のモダン建築の影響をもどことなく窺わせるなど、伝統の上にも新しいものも難なく取り入れた作品である。

　そしてこの美しい校舎を建てた建築家・ヒンデルと請負師・木田保造には、ある一つの共通項がある。それは２人とも同時期に北海道で活躍したということ。
　ヒンデルは大正末に来日、当初は札幌に滞在し同地の修道院・宣教師館・住宅の設計を手掛けた人物。なお大正１４(1925)年の火災で焼失した函館・トラピスチヌ修道院の再建計画も、このヒンデルが担当したという。

　また木田保造は何度となく紹介してきたように、大正のはじめ函館の東本願寺別院の造営を機に、函館の建築設計施工を数多く手掛けることになり、ヒンデルが札幌で建築活動をおこなっていた大正末に奇しくも札幌へ進出している。
　ヒンデルと木田との組み合わせによる建築作品は札幌ではなかったが、北海道という共通項を持った二人が、このような美しい校舎を東京の地に建てたというのも、何かの縁があったのではないかと思えてきてしまう。東京の高台に建つ上智大学の校舎に、北の大地のような爽やかさをも感じてしまったりもした・・・・。

◆上智大学1号館
　◎設計：マックス・ヒンデル(Max Hinder)
　◎施工：木田保造(木田組)
　◎竣工：昭和７(1932)年
　◎構造：鉄筋コンクリート造４階建て
　◎所在地：東京都千代田区紀尾井町7-1

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★参考文献・・・・『札幌の建築探訪』　1998年、北海道新聞社刊所載・〔札幌の歴史的建造物をめぐって〕　角幸博氏著
『木田保造』　1941年、木田組発行
★撮影・・・・2009年2月