函館・大町の相馬倉庫(函館懐かしの建築)

◆函館の相馬倉庫
　　・・・・多くの人々に親しまれたレトロな鉄筋コンクリート製倉庫


　以前から常々思うことだが、函館という街はガイドブックなどで紹介されている観光施設ではなく、この街独特の風情に魅せられているという方も数多くいるのではないかと思う。
　古い町並みを当てもなく歩き、ふと立ち止まった日常の何気ない暮らしや風景に思わず胸を打たれてしまう・・・・・、そのような出会いが嬉しく何度となく函館を訪れてしまうのである。そして私のような函館のリピーターや地元の人達に愛されたのが、今回紹介させていただく大町の相馬倉庫。残念ながら老朽化のため２年ほど前に取り壊されたが、港町・函館の風情を伝える哀愁を帯びた鉄筋コンクリート製の倉庫は、人々の記憶に残る建築だと言えるだろう。

　この相馬倉庫、その存在は多くの人たちに認知されていたが、この建物の由来についてはあまり知られていないようだ。

　相馬の名の通り、ここから100メートルほど離れた基坂下の相馬株式会社が所有していたもの。また相馬倉庫があった大町の周辺は、期間は短かったものの幕末から外国人居留地が置かれていた土地で、幕末より函館で事業展開していた相馬は、払い下げられたこの土地を購入し倉庫業を開始したようである。

　当初はどのような形態のものだったのかは不明だが、昭和５(1930)年に新築されたのが長年親しまれた、あの倉庫だった訳である。設計と施工は、大正から函館で活躍していた在京の建築家・木田保造(1885～1940)率いる木田組が担当。当時の詳しい資料を発見できなかったので何とも言えないが、鉄筋コンクリート製の倉庫建築というのは、この頃としては最先端の施設だったのではないかと考えられる。

　木田保造率いる木田組は、大正末から函館・東京・札幌を中心に事業を拡大。昭和５年に函館では末広町・南部坂下の旧丸井今井デパートの増築、末広町・日和坂下の旧森屋デパート(現存せず)の増築というビックプロジェクトを手掛けていた。２軒とも長年、函館のランドマーク的存在として親しまれた建物である。

　また木田組は銀行・オフィス・商店などの商業施設、教会寺院などの宗教施設、また個人邸宅の施工のほか、工場や倉庫などの産業施設も数多く手掛けている。この相馬倉庫はベイエリアの金森34番倉庫(大正4年築)とともに、木田組が手掛けた産業施設の数少ない現存作品の一つであった。

　竣工当初は、この頃としては最先端の鉄筋コンクリート製の施設だった相馬倉庫。しかし時代の経過とともに周辺の景色と調和し、独特の風合いを醸し出していた。このような時を重ねた風格ある建物は、人々の記憶からは簡単には消えないだろう。

◆旧相馬合名会社倉庫・・・・・現存せず
　　◎設計：木田保造(木田組)
　　◎施工：木田保造(木田組)
　　◎竣工：昭和５(1930)年
　　◎構造：鉄筋コンクリート造り平屋
　　◎旧所在地：函館市大町11

★相馬倉庫より函館港を望む

写真奥の右手に写る石碑は〔新島襄　海外渡航の地碑〕。元治元(1864)年、当時22歳だった新島襄(同志社大学の創設者)は、この地から海外密航を企てアメリカへと渡った。

★緑の島より
右手に写るのが相馬倉庫。
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★撮影・・・・・1998年8月、1999年4月、2001年3月、2006年6月